魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される

新たな生活1

 ユグドラス邸に来て、一週間が過ぎた。レティシアには家庭教師が付き、作法や教育の復習を日々行っている。
「本当、レティシア様は姿勢も作法も綺麗ですわ」
「ありがとうございます、サグサさん」
 スカートの裾を掴みながら腰を落とし礼をする。小さい頃に教えてくれた家庭教師の先生のお陰で、すんなりと出来る。感謝の限りだ。
「次は刺しゅうでもいたしましょうか」
「はい」
 刺しゅうは、サロンでも時折行われるものだ。サロンでは談話が主となっているが、稀に刺しゅうをしながら楽しく談笑をしたりもする。そうなると魔糸の生成が出来ないレティシアは不利となるが、サロンに魔糸を持っていくという打開案でどうにかなる。
「私、嬉しいです。クォーク邸でも使用人達から基本の模様くらいしか教わってなかったので、サグサさんに教えて貰えるのが楽しみなんです」
「レティシア様……」
 そう言って微笑むレティシアに、サグサは心をうたれた。魔糸は事前にサグサが用意してくれたものを使い、教わりながらハンカチに刺しゅうを施していく。レティシアは新しく増える知識に、楽しいと思えた。


「今日はここまでにいたしましょうか」
「はい」
 刺しゅうも終わり、サロン形式で会話をしていたサグサとレティシアは時計を確認する。そろそろセシリアスタが帰宅してくる時間だ。出迎えに行かねば。
「ここの片づけは私が行っておきます。カイラ、お願いしても?」
「了解ですっ」
「ありがとう、アティカ」
 片づけを申し出てくれたアティカに礼を述べ、サグサにお辞儀をしてカイラと共に部屋から出る。急いでエントランスに行かねば……。逸る心を静めながら、レティシアは急いだ。

「セシル様、お帰りなさい」
「ただいま、レティシア」
 良かった、間に合った――。ホッとしながら、レティシアは公務から帰ってきたセシリアスタを出迎えた。ふと、背後に誰かいることに気付く。
「そちらの御方は……?」
 エドワースの隣に居る、プラチナブロンドの髪に青目の青年。セシリアスタに引けず劣らず、美貌の持ち主だった。セシリアスタの横に立ち、レティシアの手を取る。
「はじめまして、レディ。僕はイザーク。セシルとエドの旧友さ」
 手の甲に唇を落とされ、レティシアはすぐさまスカートの裾を摘まみお辞儀をした。
「はじめまして、レティシアです」
「セシルの婚約者は可愛いね」
 屈託のない笑顔で話すイザークの一言に、レティシアの頬が赤く染まる。可愛いなんて、異性から言われたこともなかったからだ。
「うん、可愛い」
「……イザーク」
 微笑ましい光景に、セシリアスタのドスの効いた声が割り込む。「怖い怖い」と言いながら手を上げるイザークに、やれやれと肩を落とすエドワース。
「夕食は如何なされますか?」
「今日は四人で構わないか」
 不安げに聞いてくるセシリアスタに、レティシアは微笑み頷いて返答する。ホッとしたセシリアスタに疑問を抱きながら、レティシアはセシリアスタに肩を抱かれ食堂に向かった。
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