魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
魔法講義1
翌朝。カイラとアティカに起こされ起床したレティシアは、湯あみを済ませ白のペプラム・ブラウスに黄色のフレアスカートを履き自室を出た。偶然にもセシリアスタと同タイミングで部屋から出たので共に食堂まで行き、朝食をとった。
「イザークさんはいつ頃お帰りになられたのでしょうか」
レティシアの問いに、セシリアスタは顔を上げ答える。
「昨夜の内に帰った。また今日も来ると言っていた」
「そうなんですね」
「……昨日は楽しかったか?」
突然楽しかったかと聞きだすセシリアスタに、レティシアは「はい」と笑顔で返事をした。
「セシル様の学生時代のお話が少しでも聞けたのが、嬉しかったです。またお聞きしたいです」
そう言いながら笑顔でセシリアスタを見つめるレティシアに、セシリアスタは微かに目を細めた。
「今度はあいつにアルバムも持ってくるように言っておこう」
「本当ですかっ、嬉しい……っ」
心から嬉しそうに喜ぶレティシアに、セシリアスタは微笑みながら食事に手を付けた。
「イザークが来たら呼ぶ。そうしたら私の部屋に来てくれ」
「わかりました」
部屋の前で別れ、レティシアは自室へと戻る。カイラとアティカは部屋の掃除を終えたばかりのようだった。
「あ、お嬢様、おかえりなさいませ」
「食事の方は如何でしたか?」
歩み寄ってくる二人に、レティシアは微笑みながら話しかける。
「食事は何時も通り、美味しかったわ。二人もお掃除、お疲れ様」
「これくらい楽勝ですよっ、今はアティカさんと二人なので分担も出来ますしね」
レティシアの言葉に、カイラは微笑みながら答えた。クォーク邸の私の部屋よりも大きいけれど、今はカイラだけじゃない。アティカがいてくれるから、カイラの負担も減ってるのが良かった――。レティシアはアティカに視線を向け、礼を述べた。
「アティカ、貴女もありがとう」
そんなレティシアに、アティカは頭を垂れた。
「勿体なきお言葉です」
「アティカさんはお堅い人ですよね」
カイラの一言に、アティカは「そうかしら……」と首を傾げる。二人の仲も良く、本当に此処に来て良かったとレティシアは思えた。
「レティシア嬢、イザークが着いたんで、セシルの部屋に来て欲しいっす」
ノックの後、ドア越しにエドワースの声がかかる。レティシアはカイラとアティカと共にドアまで向かい、扉を開けて貰う。
「あ、今回は侍女二人はお留守番で」
「「……?」」
エドワースに先に断られ、疑問符を浮かべながらカイラとアティカはレティシアの自室で待機する。レティシアは迎えに来てくれたエドワースと共に、隣のセシリアスタの部屋へと向かった。
「セシル、入るぞ~」
ノックの後、エドワースがドアを開ける。シンプルに木目調の家具で統一された部屋に、レティシアはこくりと喉を鳴らし立ち入る。部屋いっぱいにセシリアスタの焚く香の香りが広がり、レティシアは無意識に深呼吸していた。
「やあ、レティシア嬢」
「こ、こんにちはっ、イザークさん」
声を掛けられ、ハッと我に返ったレティシアは慌ててイザークに挨拶する。イザークは微笑みながら、おいでと手招いた。
「レティシア」
手招かれ近くに歩み寄ると、セシリアスタは自身の隣に座るようにとソファを軽く叩いた。おずおずと近付くと、セシリアスタはレティシアの肩を抱きそのまま隣に座らせた。
「きゃっ、せ、セシル様……?」
ぎゅっとレティシアの肩を抱きながら、イザークを凝視するセシリアスタ。イザークは「怖い怖い」と言いながら、手を上げていた。
「おいおい、てことは、俺がイザークの隣かよ……」
やれやれと肩を落とすエドワースに、イザークは嬉しそうに笑顔を向けていた。
「さて、魔法の講義を始める」
「は、はい……っ」
セシリアスタの声を合図に、講義が始まった。緊張しているレティシアと違い、イザークとエドワースはのんびりとした態度である。
「レティシア、そもそも魔法とはどういった原理で発動するか知っているか?」
「はい。大気中に存在する魔力に宿る精霊ノーム、シルフ、サラマンダー、ウンディーネ……この四つの精霊の力と己の体内にある魔力を組み合わせ、発動させるんですよね」
「そう、自身の魔力と相性の良い精霊の力を組み合わせるからこそ、人によって使える魔法の属性が変わってくる」
そう言いながら、セシリアスタはテーブルの上に置かれた紙に図を書き出す。
「地は水に、水は火に、火は風に、風は地に強い。ここまでは基礎だから知っているな」
「はい」
円を描くように、地、水、火、風の四つの属性の相関図を書き出していくセシリアスタ。その隣に、黄、青、赤、緑と記していく。
「このように、自身の扱える属性に応じて生成できる魔石の色が決まっている。魔糸の色の種類が多いのは、糸紡ぎの製法時に二つ以上の魔石を紡ぎ合わせているからだ」
「そうだったんですね……」
魔石や魔糸にそういった意味合いがあるとは知らなかった――。レティシアはセシリアスタの説明を頷きながら聞いていく。
「魔力は多かれ少なかれ、生きとし生けるものには必ず存在する。そして、大気中のマナとの干渉は魔力を持っている者ならば誰しもが出来る」
その言葉に、レティシアは俯いた。魔法が使えないということは、大気中のマナに干渉できないということだ。小さい頃、「精霊に、マナに愛されていないから出来ないのだ」と言われた言葉が蘇ってくる。
「先に言っておく。レティシア、君は精霊に愛されていないという訳ではない」
「え……?」
セシリアスタの言葉に、顔を上げるレティシア。どうして? どうして、そう断言出来るの? 不思議がるレティシアに、セシリアスタは微笑んだ。
「この世界で生きる存在は、必ずしもマナに、精霊に愛されて生まれてくる。そうでなければ、魔力は宿らない。魔法が使えないからといって、精霊に愛されていないと断言する理由にはならない」
「……ぁ」
セシリアスタの言葉に、レティシアは涙が零れた。小さい頃から、魔法が使えないと判明したあの時から、両親にも妹にも愛して貰えなかった。魔法が使えないということは、マナにも精霊にも愛されていない証拠だと、何度も言われてきた。しかし、セシリアスタは今、それを否定してくれた。それが何よりも嬉しかった。乾いてひび割れた心に、潤いを与えてくれたようだった。
「っ、ふ、う……っ」
「レティシア」
抱き寄せられ、細く、しかし筋肉の締まった逞しい腕に抱き締められる。セシリアスタの心音が、体温が優しくレティシアを包み込んだ。嗚咽を押し殺しながら、セシリアスタの胸の中で涙を流した。
「イザークさんはいつ頃お帰りになられたのでしょうか」
レティシアの問いに、セシリアスタは顔を上げ答える。
「昨夜の内に帰った。また今日も来ると言っていた」
「そうなんですね」
「……昨日は楽しかったか?」
突然楽しかったかと聞きだすセシリアスタに、レティシアは「はい」と笑顔で返事をした。
「セシル様の学生時代のお話が少しでも聞けたのが、嬉しかったです。またお聞きしたいです」
そう言いながら笑顔でセシリアスタを見つめるレティシアに、セシリアスタは微かに目を細めた。
「今度はあいつにアルバムも持ってくるように言っておこう」
「本当ですかっ、嬉しい……っ」
心から嬉しそうに喜ぶレティシアに、セシリアスタは微笑みながら食事に手を付けた。
「イザークが来たら呼ぶ。そうしたら私の部屋に来てくれ」
「わかりました」
部屋の前で別れ、レティシアは自室へと戻る。カイラとアティカは部屋の掃除を終えたばかりのようだった。
「あ、お嬢様、おかえりなさいませ」
「食事の方は如何でしたか?」
歩み寄ってくる二人に、レティシアは微笑みながら話しかける。
「食事は何時も通り、美味しかったわ。二人もお掃除、お疲れ様」
「これくらい楽勝ですよっ、今はアティカさんと二人なので分担も出来ますしね」
レティシアの言葉に、カイラは微笑みながら答えた。クォーク邸の私の部屋よりも大きいけれど、今はカイラだけじゃない。アティカがいてくれるから、カイラの負担も減ってるのが良かった――。レティシアはアティカに視線を向け、礼を述べた。
「アティカ、貴女もありがとう」
そんなレティシアに、アティカは頭を垂れた。
「勿体なきお言葉です」
「アティカさんはお堅い人ですよね」
カイラの一言に、アティカは「そうかしら……」と首を傾げる。二人の仲も良く、本当に此処に来て良かったとレティシアは思えた。
「レティシア嬢、イザークが着いたんで、セシルの部屋に来て欲しいっす」
ノックの後、ドア越しにエドワースの声がかかる。レティシアはカイラとアティカと共にドアまで向かい、扉を開けて貰う。
「あ、今回は侍女二人はお留守番で」
「「……?」」
エドワースに先に断られ、疑問符を浮かべながらカイラとアティカはレティシアの自室で待機する。レティシアは迎えに来てくれたエドワースと共に、隣のセシリアスタの部屋へと向かった。
「セシル、入るぞ~」
ノックの後、エドワースがドアを開ける。シンプルに木目調の家具で統一された部屋に、レティシアはこくりと喉を鳴らし立ち入る。部屋いっぱいにセシリアスタの焚く香の香りが広がり、レティシアは無意識に深呼吸していた。
「やあ、レティシア嬢」
「こ、こんにちはっ、イザークさん」
声を掛けられ、ハッと我に返ったレティシアは慌ててイザークに挨拶する。イザークは微笑みながら、おいでと手招いた。
「レティシア」
手招かれ近くに歩み寄ると、セシリアスタは自身の隣に座るようにとソファを軽く叩いた。おずおずと近付くと、セシリアスタはレティシアの肩を抱きそのまま隣に座らせた。
「きゃっ、せ、セシル様……?」
ぎゅっとレティシアの肩を抱きながら、イザークを凝視するセシリアスタ。イザークは「怖い怖い」と言いながら、手を上げていた。
「おいおい、てことは、俺がイザークの隣かよ……」
やれやれと肩を落とすエドワースに、イザークは嬉しそうに笑顔を向けていた。
「さて、魔法の講義を始める」
「は、はい……っ」
セシリアスタの声を合図に、講義が始まった。緊張しているレティシアと違い、イザークとエドワースはのんびりとした態度である。
「レティシア、そもそも魔法とはどういった原理で発動するか知っているか?」
「はい。大気中に存在する魔力に宿る精霊ノーム、シルフ、サラマンダー、ウンディーネ……この四つの精霊の力と己の体内にある魔力を組み合わせ、発動させるんですよね」
「そう、自身の魔力と相性の良い精霊の力を組み合わせるからこそ、人によって使える魔法の属性が変わってくる」
そう言いながら、セシリアスタはテーブルの上に置かれた紙に図を書き出す。
「地は水に、水は火に、火は風に、風は地に強い。ここまでは基礎だから知っているな」
「はい」
円を描くように、地、水、火、風の四つの属性の相関図を書き出していくセシリアスタ。その隣に、黄、青、赤、緑と記していく。
「このように、自身の扱える属性に応じて生成できる魔石の色が決まっている。魔糸の色の種類が多いのは、糸紡ぎの製法時に二つ以上の魔石を紡ぎ合わせているからだ」
「そうだったんですね……」
魔石や魔糸にそういった意味合いがあるとは知らなかった――。レティシアはセシリアスタの説明を頷きながら聞いていく。
「魔力は多かれ少なかれ、生きとし生けるものには必ず存在する。そして、大気中のマナとの干渉は魔力を持っている者ならば誰しもが出来る」
その言葉に、レティシアは俯いた。魔法が使えないということは、大気中のマナに干渉できないということだ。小さい頃、「精霊に、マナに愛されていないから出来ないのだ」と言われた言葉が蘇ってくる。
「先に言っておく。レティシア、君は精霊に愛されていないという訳ではない」
「え……?」
セシリアスタの言葉に、顔を上げるレティシア。どうして? どうして、そう断言出来るの? 不思議がるレティシアに、セシリアスタは微笑んだ。
「この世界で生きる存在は、必ずしもマナに、精霊に愛されて生まれてくる。そうでなければ、魔力は宿らない。魔法が使えないからといって、精霊に愛されていないと断言する理由にはならない」
「……ぁ」
セシリアスタの言葉に、レティシアは涙が零れた。小さい頃から、魔法が使えないと判明したあの時から、両親にも妹にも愛して貰えなかった。魔法が使えないということは、マナにも精霊にも愛されていない証拠だと、何度も言われてきた。しかし、セシリアスタは今、それを否定してくれた。それが何よりも嬉しかった。乾いてひび割れた心に、潤いを与えてくれたようだった。
「っ、ふ、う……っ」
「レティシア」
抱き寄せられ、細く、しかし筋肉の締まった逞しい腕に抱き締められる。セシリアスタの心音が、体温が優しくレティシアを包み込んだ。嗚咽を押し殺しながら、セシリアスタの胸の中で涙を流した。