魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
パーティー会場
オズワルト伯爵邸では、パーティーが既に始まっていた。
「レティシアちゃん、遅いわね……」
「迎えには行っているから、そろそろ来るさ」
そう言っているオズワルト伯爵夫妻の元に、スルグが近づいてくる。
「此度のパーティー、招待いただき感謝します。オズワルト伯爵」
「やあ、クォーク伯爵。元気そうだね。何か用かい?」
「はい。実はこの度、リラックス効果のアロマを入手しまして……パーティー内で焚いてもよろしいでしょうか?」
スルグの言葉に、ディシアドは首を傾げる。
「アロマかい?匂いがきついのはちょっとなあ……」
「いえいえっ、匂いもそんなにきつくないものです。他の領地の伯爵にも宣伝したいので、是非……」
ディシアドは考える。ここで商売話をするのも別に構わないか、ということで、首を縦に振った。
「いいよ。他の来賓が嫌がったら消してね」
「ありがとうございます」
そう言い、その場を後にするスルグ。その顔は、あまりにもこの場に似つかわしくない笑みだった。
アロマが会場内に広がる。途中から会場に入ったセシリアスタとエドワース、イザークはあまりの甘ったるい香りに顔を顰めた。
「うげ、なんだこの匂い……」
エドワースはあまりの匂いに、気分が悪くなり、自身の周りに風のバリアを張って匂いを霧散させた。
「あれ?レティシア嬢は何処だ?」
辺りを見渡すが、レティシアの姿がない。そんなエドワースを余所に、イザークは首を傾げだした。
「レティシア嬢? 誰だい、その子は」
「は?」
突然の発言に、開いた口が塞がらない。エドワースはイザークに詰め寄る。
「何言ってるんだよ。レティシア嬢を忘れたとか言うなよ?」
「だから、誰のことだい?」
「はあ!?」
こいつ、頭いかれたか? そう思いだすエドワースの側に、一人の少女が駆け寄ってきた。
「セシリアスタさま~!」
向かってきた少女の姿に、エドワースは目を見開く。確か、レティシアの妹だった筈だ。それに、セシリアスタの態度もおかしいことにすぐさま気付く。
「セシル、おいセシル!」
「私は、違う、私は……」
何かに動揺しているような、錯乱しているような、そんな姿を見せるセシリアスタ。エドワースが何度も呼び掛けるが、スフィアが割り込んできた。
「何よあなた、邪魔よ! セシリアスタさま、早く婚約発表してくださいな! 私、早くセシリアスタさまのスフィアになりたいですっ」
そう言いながらセシリアスタの腕に絡みつくスフィア。そんな彼女をそのままに、セシリアスタはまだ何かを言っている。まるで自分を落ち着けようとしているような状態だ。何かを必死に堪えるような素振りをし瞳の焦点があっていないセシリアスタと、レティシアを忘れたイザーク。訳がわからない。そう思っているエドワースの目に、一つのものが映った。
彼女の胸には、レティシアのペンダントが光っていた。
「っ」
エドワースは辺りを見回す。皆何処か虚ろな目をしている。その時、前に見た書類を思い出した。魔香炉。相手に幻覚や暗示をかける効果をもつという魔道具。このままではまずい。そう思った直後、エドワースは呪文を詠唱し、魔法を使った。突風を吹かせ、辺りに漂っていたアロマの香りを会場から飛ばした。魔香炉も、ついでに破壊しておいた。
「きゃっ、もう! なんなのよ!」
そう言い頬を膨らませるスフィアの腕を、セシリアスタは強く握りしめた。
「セシリアスタさま、痛いですっ」
「勝手にレティシアのものを付けるな」
元に戻ったセシリアスタに、エドワースはホッと安堵する。
「エド、助かった」
「いや、俺は偶然引っかからなかっだけだ」
そう言うエドワースを、スフィアは表情を歪めて睨み付ける。エドワースは「お~、こわ」と呑気に呟いた。
「どうしたんだい。一体、何が……」
「兄上。あの香炉は?」
「あれはクォーク伯爵が用意したものだ。どういうことだい? クォーク伯爵」
ディシアドの声に、会場にいた伯爵達が一斉にクォーク伯爵夫妻を見やる。スルグは冷や汗を滝のように流していた。セシリアスタにはスフィアの首元からペンダントを取り去り、クォーク伯爵夫妻の前に引っ張り出す。
「魔香炉は違法魔道具だ。それをこの会場で使ったこと、弁解は聞かんぞ」
「っ、貴様がスフィアを嫁にしないのがいけないのだ!」
そう叫ぶスルグに、スフィアが便乗する。
「そうよ! なんで私じゃ駄目なのよ! あんな『不良品』なんかより、私の方が何倍も愛しているのに! 何でよ!!」
そう叫ぶスフィアに、セシリアスタは冷めた目で見下ろす。まるで物を見るかのような凍てついた瞳に、思わず後退る。
「貴様のような歪んだ者が、レティシアを語るな」
たった一言、そうセシリアスタは発した。その隣で、イザークが親衛隊を率いてくる。
「クォーク伯爵夫妻、並びにスフィア・クォーク。君たちを拘束する」
「何でよ! 私は何も悪くない! 悪いのはレティシアよ!!」
そう言い暴れるスフィアに、イザークは小さく溜息を吐き、首へ手刀を当てる。気絶したスフィアを抱え、親衛隊に引き渡す。その光景を見て、ユノアが叫んだ。
「きゃああっ、スフィア!」
「な、何をする貴様っ!」
その言葉に、イザークは振り返り顔を寄せ、「僕のこと、知らない訳ないよね?」と呟く。その言葉に、スルグは顔面蒼白になる。
「あ、あなた様は……っ」
「連れていけ」
「待てっ!」
イザークの言葉に、親衛隊がクォーク伯爵夫妻と気絶したスフィアを連れて行こうとする。それを寸での所でセシリアスタが止めた。
「レティシアはどこだ!」
スルグの胸倉を掴み、セシリアスタが詰め寄る。だが、スルグはそんなセシリアスタを鼻で笑い、言葉を発した。
「誰が教えるか……貴様へ、最後の意趣返しだ」
「貴様……っ」
表情の歪むセシリアスタに、イザークが歩み寄る。
「クォーク伯爵。罪が重くなるぞ」
「たとえ、あなた様に何を言われようと、絶対に話すものか!『不良品』が私達を陥れたこと、後悔させてやる!」
はははははは! そう笑うスルグに、セシリアスタの魔力が膨らみだす。エドワースが慌てて駆け寄るが、既に遅い。
「貴様……死にたいようだな」
「は?」
つい先程まで笑っていたスルグが、地べたに押し付けられる。誰も触れてはいないのに、スルグの体は何かに圧し潰されているように地べたへと押しやられる。
「セシル、落ち着け!」
エドワースが肩に手を掛け声を掛けるが、セシリアスタは魔力の放出を止めない。セシリアスタの横には、宙に浮く黒い球体が浮かんでいた。
「ぐ、が……っ」
「あなたっ」
見えない力に圧し潰され、スルグがうめき声を上げる。ユノアは懸命に駆け寄ろうとするが、親衛隊に押さえられおり動けない。スルグの体から、嫌な音が聞える。
「セシル、今は彼に構っている場合じゃない。レティシア嬢を探そう」
そう言うイザークの言葉で、セシリアスタは魔力の放出を抑えた。
その時、遠く離れた場所から光の柱が立ち上がった。
突然の光の柱に、会場にいる全員が目を奪われる。瞬間、セシリアスタだけが言葉を発した。
「……レティシアだ」
「え?」
イザークが聞きなおそうとする前に、エンチャントを自身に付与し、跳躍するセシリアスタ。エドワースが慌ててついて行く。
「待てって! セシル!」
街の外れへと跳躍をする二人を、イザークは静かに見送った。
「レティシアちゃん、遅いわね……」
「迎えには行っているから、そろそろ来るさ」
そう言っているオズワルト伯爵夫妻の元に、スルグが近づいてくる。
「此度のパーティー、招待いただき感謝します。オズワルト伯爵」
「やあ、クォーク伯爵。元気そうだね。何か用かい?」
「はい。実はこの度、リラックス効果のアロマを入手しまして……パーティー内で焚いてもよろしいでしょうか?」
スルグの言葉に、ディシアドは首を傾げる。
「アロマかい?匂いがきついのはちょっとなあ……」
「いえいえっ、匂いもそんなにきつくないものです。他の領地の伯爵にも宣伝したいので、是非……」
ディシアドは考える。ここで商売話をするのも別に構わないか、ということで、首を縦に振った。
「いいよ。他の来賓が嫌がったら消してね」
「ありがとうございます」
そう言い、その場を後にするスルグ。その顔は、あまりにもこの場に似つかわしくない笑みだった。
アロマが会場内に広がる。途中から会場に入ったセシリアスタとエドワース、イザークはあまりの甘ったるい香りに顔を顰めた。
「うげ、なんだこの匂い……」
エドワースはあまりの匂いに、気分が悪くなり、自身の周りに風のバリアを張って匂いを霧散させた。
「あれ?レティシア嬢は何処だ?」
辺りを見渡すが、レティシアの姿がない。そんなエドワースを余所に、イザークは首を傾げだした。
「レティシア嬢? 誰だい、その子は」
「は?」
突然の発言に、開いた口が塞がらない。エドワースはイザークに詰め寄る。
「何言ってるんだよ。レティシア嬢を忘れたとか言うなよ?」
「だから、誰のことだい?」
「はあ!?」
こいつ、頭いかれたか? そう思いだすエドワースの側に、一人の少女が駆け寄ってきた。
「セシリアスタさま~!」
向かってきた少女の姿に、エドワースは目を見開く。確か、レティシアの妹だった筈だ。それに、セシリアスタの態度もおかしいことにすぐさま気付く。
「セシル、おいセシル!」
「私は、違う、私は……」
何かに動揺しているような、錯乱しているような、そんな姿を見せるセシリアスタ。エドワースが何度も呼び掛けるが、スフィアが割り込んできた。
「何よあなた、邪魔よ! セシリアスタさま、早く婚約発表してくださいな! 私、早くセシリアスタさまのスフィアになりたいですっ」
そう言いながらセシリアスタの腕に絡みつくスフィア。そんな彼女をそのままに、セシリアスタはまだ何かを言っている。まるで自分を落ち着けようとしているような状態だ。何かを必死に堪えるような素振りをし瞳の焦点があっていないセシリアスタと、レティシアを忘れたイザーク。訳がわからない。そう思っているエドワースの目に、一つのものが映った。
彼女の胸には、レティシアのペンダントが光っていた。
「っ」
エドワースは辺りを見回す。皆何処か虚ろな目をしている。その時、前に見た書類を思い出した。魔香炉。相手に幻覚や暗示をかける効果をもつという魔道具。このままではまずい。そう思った直後、エドワースは呪文を詠唱し、魔法を使った。突風を吹かせ、辺りに漂っていたアロマの香りを会場から飛ばした。魔香炉も、ついでに破壊しておいた。
「きゃっ、もう! なんなのよ!」
そう言い頬を膨らませるスフィアの腕を、セシリアスタは強く握りしめた。
「セシリアスタさま、痛いですっ」
「勝手にレティシアのものを付けるな」
元に戻ったセシリアスタに、エドワースはホッと安堵する。
「エド、助かった」
「いや、俺は偶然引っかからなかっだけだ」
そう言うエドワースを、スフィアは表情を歪めて睨み付ける。エドワースは「お~、こわ」と呑気に呟いた。
「どうしたんだい。一体、何が……」
「兄上。あの香炉は?」
「あれはクォーク伯爵が用意したものだ。どういうことだい? クォーク伯爵」
ディシアドの声に、会場にいた伯爵達が一斉にクォーク伯爵夫妻を見やる。スルグは冷や汗を滝のように流していた。セシリアスタにはスフィアの首元からペンダントを取り去り、クォーク伯爵夫妻の前に引っ張り出す。
「魔香炉は違法魔道具だ。それをこの会場で使ったこと、弁解は聞かんぞ」
「っ、貴様がスフィアを嫁にしないのがいけないのだ!」
そう叫ぶスルグに、スフィアが便乗する。
「そうよ! なんで私じゃ駄目なのよ! あんな『不良品』なんかより、私の方が何倍も愛しているのに! 何でよ!!」
そう叫ぶスフィアに、セシリアスタは冷めた目で見下ろす。まるで物を見るかのような凍てついた瞳に、思わず後退る。
「貴様のような歪んだ者が、レティシアを語るな」
たった一言、そうセシリアスタは発した。その隣で、イザークが親衛隊を率いてくる。
「クォーク伯爵夫妻、並びにスフィア・クォーク。君たちを拘束する」
「何でよ! 私は何も悪くない! 悪いのはレティシアよ!!」
そう言い暴れるスフィアに、イザークは小さく溜息を吐き、首へ手刀を当てる。気絶したスフィアを抱え、親衛隊に引き渡す。その光景を見て、ユノアが叫んだ。
「きゃああっ、スフィア!」
「な、何をする貴様っ!」
その言葉に、イザークは振り返り顔を寄せ、「僕のこと、知らない訳ないよね?」と呟く。その言葉に、スルグは顔面蒼白になる。
「あ、あなた様は……っ」
「連れていけ」
「待てっ!」
イザークの言葉に、親衛隊がクォーク伯爵夫妻と気絶したスフィアを連れて行こうとする。それを寸での所でセシリアスタが止めた。
「レティシアはどこだ!」
スルグの胸倉を掴み、セシリアスタが詰め寄る。だが、スルグはそんなセシリアスタを鼻で笑い、言葉を発した。
「誰が教えるか……貴様へ、最後の意趣返しだ」
「貴様……っ」
表情の歪むセシリアスタに、イザークが歩み寄る。
「クォーク伯爵。罪が重くなるぞ」
「たとえ、あなた様に何を言われようと、絶対に話すものか!『不良品』が私達を陥れたこと、後悔させてやる!」
はははははは! そう笑うスルグに、セシリアスタの魔力が膨らみだす。エドワースが慌てて駆け寄るが、既に遅い。
「貴様……死にたいようだな」
「は?」
つい先程まで笑っていたスルグが、地べたに押し付けられる。誰も触れてはいないのに、スルグの体は何かに圧し潰されているように地べたへと押しやられる。
「セシル、落ち着け!」
エドワースが肩に手を掛け声を掛けるが、セシリアスタは魔力の放出を止めない。セシリアスタの横には、宙に浮く黒い球体が浮かんでいた。
「ぐ、が……っ」
「あなたっ」
見えない力に圧し潰され、スルグがうめき声を上げる。ユノアは懸命に駆け寄ろうとするが、親衛隊に押さえられおり動けない。スルグの体から、嫌な音が聞える。
「セシル、今は彼に構っている場合じゃない。レティシア嬢を探そう」
そう言うイザークの言葉で、セシリアスタは魔力の放出を抑えた。
その時、遠く離れた場所から光の柱が立ち上がった。
突然の光の柱に、会場にいる全員が目を奪われる。瞬間、セシリアスタだけが言葉を発した。
「……レティシアだ」
「え?」
イザークが聞きなおそうとする前に、エンチャントを自身に付与し、跳躍するセシリアスタ。エドワースが慌ててついて行く。
「待てって! セシル!」
街の外れへと跳躍をする二人を、イザークは静かに見送った。