魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
パーティーの後の忙しさ
オズワルト伯爵邸でのパーティーとその間にあった一騒動の後、レティシアは忙しない日々を送っていた。
「レティシアちゃん、相変らず細いわね~……ちゃんとご飯食べてるの?」
「ちょっとジャスミン、口ばかり動かさないで手を動かしなさいな」
「いやね、もう! ちゃんと動かしているわよ、オリビアったらっ」
今は、逞しい双子デザイナー二人に囲まれながら、レティシアはドレスの採寸をされている状態だ。
それは、パーティーの帰りの馬車の中でのことだった。
「レティシア」
「何でしょうか、セシル様」
ゆったりとした空気の中、セシリアスタは微笑んだ。そんなセシリアスタにつられて、レティシアも微笑み返す。
「君が成人したら、結婚しよう」
その言葉に、レティシアは目を見開き思わず口元を手で覆った。冗談ではないだろうか――。
「先に言っておく。嘘なんて意味のないことは言わない」
「そ、そうですよね……」
一ヶ月共に暮らしてみてわかったことだが、セシリアスタは嘘が嫌いだ。軽い冗談もあまり好まない人である。そんなセシリアスタが言い出すということは、本当のことなのだろう。
「レティシア。今日、君の周りでは色々なことが起こった。家族のことも含めてだ」
確かに、色々と起こり過ぎた。家族に誘拐され、売り飛ばされかけ、またパーティー会場での騒動、家族の逮捕……。思い出しただけでも波乱の一日だったと思える。
そんなことを思うレティシアに、セシリアスタは言葉を続けた。
「家族を失ったと言っても過言ではない。だからこそ、一日でも早く君と家族になりたい」
「セシル様……」
セシリアスタの言葉に、心が温まる。家族にも愛されなかったレティシアを、家族として迎えたいと言ってくれるセシリアスタのその思いが、レティシアの心を満たした。
「レティシア」
キャリッジの向かいに座るセシリアスタに手を取られ、思わずどきりとしてしまう。
「君を、愛している。結婚してほしい」
狭いキャリッジの中で、凛とした声が響く。誰かに求められることが、こんなに嬉しいことだったなんて、レティシアは今まで知ることもなかった。セシリアスタに教えられて、求められて、嬉しいと思えるようになれた。
レティシアは瞳に涙を溜めながら、小さな声で「……はい」と答える。その言葉を聞き、セシリアスタは今まで見たこともない程の満面な笑顔を見せた。その表情を見て、あまりの美しさにレティシアは頬を紅潮させた。
「では、君が成人する日……君の誕生日に式を挙げよう」
「わかりました」
そうなると、式は後二週間後だ。レティシアは期待に胸を膨らませた。そんなレティシアに、セシリアスタは声を掛ける。
「君には済まないが、今回のパーティーに来た伯爵達への招待状を用意してほしい。私は他にも声を掛けねばならない人達がいる」
「はい、わかりました」
今日のパーティーに参加していた人達は、皆とても良い人達だった。彼らに招待状を一通ずつ書くのは気が遠くなることだが、大丈夫と返事をする。
「それと、結婚に際して教会への許可証は私が取っておこう。明日から大変になるが、許して欲しい」
謝るセシリアスタに、レティシアは首を横に振った。これくらい、苦でもないのだから。
「謝らないでください。私は大丈夫ですから!」
そう笑顔を向けるレティシア。その笑顔に、セシリアスタは小さく口角を上げた。
それが、二日前のことだ。
招待状の手紙を書いている最中、お世話になっているブティックのオリビアとジャスミンがやってきたのだ。なんでも、花嫁衣裳の為の採寸とデザインを決めて欲しいとのことだった。
「さて、新しいランジェリーも決めなきゃね!」
「もうジャスミン、その前にウエディングドレスのデザインよ、もうっ!」
「わかってるわよ~っ」
キャッキャッと楽しそうにやり取りする二人に、自然と笑顔が零れるレティシア。そんなレティシアを見て、オリビアとジャスミンも笑顔になったのだった。
「デザインはこれでいいのね」
「はい」
「となると、刺しゅうを刺して鮮やかにしましょうか」
二人と共にドレスのデザインを決めると、ジャスミンが提案しだす。オリビアが頷き、刺しゅうの模様も決め出した。
「ジャスミン、白の魔糸ってどのくらいあったかしら?」
「最近は使ってないけど……この模様にするには少し物足りないかしら……」
「あ、でしたら……」
悩む二人に、レティシアは魔石生成を行う。白い大きな魔石を作り出し、それをジャスミンに手渡す。
「糸紡ぎにかけて魔力調整をしておきますので、これを使ってください」
「レティシアちゃん、あなた……」
驚く二人に、レティシアはしまった、と後悔する。白い魔石が作れるのは、この国でもセシリアスタ以外いないことになっている。恐る恐る顔を上げると、二人の逞しい腕に抱き締められた。
「きゃっ」
「レティシアちゃん凄いわ!」
「理由は聞かないけど、こんな上等の魔石を作ってくれるだなんて……私達感激!!」
ぎゅうぎゅうと逞しい二の腕に抱き締められながら、ホッと安堵する。二人は理由を聞かないと言ってくれた。それが何より嬉しかった。
「じゃあ、後で魔糸の受け取りに来るわね」
「ティアラの方も、その時に試作品を持ってくるわ」
「はい。ありがとうございます」
エントランスで見送り、デザイナー二人はステップを踏みながら帰っていく。二人の背を見送った後、レティシアは「よしっ」と意気込み、自室へと戻った。招待状の続きと、魔糸の魔力調整、どちらも頑張らねば。
部屋に戻る道すがら、掛け声を上げ意欲を高めようとしたレティシアだった。
「レティシアちゃん、相変らず細いわね~……ちゃんとご飯食べてるの?」
「ちょっとジャスミン、口ばかり動かさないで手を動かしなさいな」
「いやね、もう! ちゃんと動かしているわよ、オリビアったらっ」
今は、逞しい双子デザイナー二人に囲まれながら、レティシアはドレスの採寸をされている状態だ。
それは、パーティーの帰りの馬車の中でのことだった。
「レティシア」
「何でしょうか、セシル様」
ゆったりとした空気の中、セシリアスタは微笑んだ。そんなセシリアスタにつられて、レティシアも微笑み返す。
「君が成人したら、結婚しよう」
その言葉に、レティシアは目を見開き思わず口元を手で覆った。冗談ではないだろうか――。
「先に言っておく。嘘なんて意味のないことは言わない」
「そ、そうですよね……」
一ヶ月共に暮らしてみてわかったことだが、セシリアスタは嘘が嫌いだ。軽い冗談もあまり好まない人である。そんなセシリアスタが言い出すということは、本当のことなのだろう。
「レティシア。今日、君の周りでは色々なことが起こった。家族のことも含めてだ」
確かに、色々と起こり過ぎた。家族に誘拐され、売り飛ばされかけ、またパーティー会場での騒動、家族の逮捕……。思い出しただけでも波乱の一日だったと思える。
そんなことを思うレティシアに、セシリアスタは言葉を続けた。
「家族を失ったと言っても過言ではない。だからこそ、一日でも早く君と家族になりたい」
「セシル様……」
セシリアスタの言葉に、心が温まる。家族にも愛されなかったレティシアを、家族として迎えたいと言ってくれるセシリアスタのその思いが、レティシアの心を満たした。
「レティシア」
キャリッジの向かいに座るセシリアスタに手を取られ、思わずどきりとしてしまう。
「君を、愛している。結婚してほしい」
狭いキャリッジの中で、凛とした声が響く。誰かに求められることが、こんなに嬉しいことだったなんて、レティシアは今まで知ることもなかった。セシリアスタに教えられて、求められて、嬉しいと思えるようになれた。
レティシアは瞳に涙を溜めながら、小さな声で「……はい」と答える。その言葉を聞き、セシリアスタは今まで見たこともない程の満面な笑顔を見せた。その表情を見て、あまりの美しさにレティシアは頬を紅潮させた。
「では、君が成人する日……君の誕生日に式を挙げよう」
「わかりました」
そうなると、式は後二週間後だ。レティシアは期待に胸を膨らませた。そんなレティシアに、セシリアスタは声を掛ける。
「君には済まないが、今回のパーティーに来た伯爵達への招待状を用意してほしい。私は他にも声を掛けねばならない人達がいる」
「はい、わかりました」
今日のパーティーに参加していた人達は、皆とても良い人達だった。彼らに招待状を一通ずつ書くのは気が遠くなることだが、大丈夫と返事をする。
「それと、結婚に際して教会への許可証は私が取っておこう。明日から大変になるが、許して欲しい」
謝るセシリアスタに、レティシアは首を横に振った。これくらい、苦でもないのだから。
「謝らないでください。私は大丈夫ですから!」
そう笑顔を向けるレティシア。その笑顔に、セシリアスタは小さく口角を上げた。
それが、二日前のことだ。
招待状の手紙を書いている最中、お世話になっているブティックのオリビアとジャスミンがやってきたのだ。なんでも、花嫁衣裳の為の採寸とデザインを決めて欲しいとのことだった。
「さて、新しいランジェリーも決めなきゃね!」
「もうジャスミン、その前にウエディングドレスのデザインよ、もうっ!」
「わかってるわよ~っ」
キャッキャッと楽しそうにやり取りする二人に、自然と笑顔が零れるレティシア。そんなレティシアを見て、オリビアとジャスミンも笑顔になったのだった。
「デザインはこれでいいのね」
「はい」
「となると、刺しゅうを刺して鮮やかにしましょうか」
二人と共にドレスのデザインを決めると、ジャスミンが提案しだす。オリビアが頷き、刺しゅうの模様も決め出した。
「ジャスミン、白の魔糸ってどのくらいあったかしら?」
「最近は使ってないけど……この模様にするには少し物足りないかしら……」
「あ、でしたら……」
悩む二人に、レティシアは魔石生成を行う。白い大きな魔石を作り出し、それをジャスミンに手渡す。
「糸紡ぎにかけて魔力調整をしておきますので、これを使ってください」
「レティシアちゃん、あなた……」
驚く二人に、レティシアはしまった、と後悔する。白い魔石が作れるのは、この国でもセシリアスタ以外いないことになっている。恐る恐る顔を上げると、二人の逞しい腕に抱き締められた。
「きゃっ」
「レティシアちゃん凄いわ!」
「理由は聞かないけど、こんな上等の魔石を作ってくれるだなんて……私達感激!!」
ぎゅうぎゅうと逞しい二の腕に抱き締められながら、ホッと安堵する。二人は理由を聞かないと言ってくれた。それが何より嬉しかった。
「じゃあ、後で魔糸の受け取りに来るわね」
「ティアラの方も、その時に試作品を持ってくるわ」
「はい。ありがとうございます」
エントランスで見送り、デザイナー二人はステップを踏みながら帰っていく。二人の背を見送った後、レティシアは「よしっ」と意気込み、自室へと戻った。招待状の続きと、魔糸の魔力調整、どちらも頑張らねば。
部屋に戻る道すがら、掛け声を上げ意欲を高めようとしたレティシアだった。