再会したクールな皮膚科ドクターは、元・売れっ娘キャバ嬢をまるごと愛で包み込む
明かに動揺しているのがわかる話の内容。

でも、それ以上に動揺しているのはこの私だ。
だって……嘘なんだもの。

せめて、前に勤めていた文房具の開発くらいにしてくれたらよかったのに。
医療事務なんて……これまで一切触れたことのない職種だ。


「そうか! 大学時代、宮川先生にはよくお世話になったものだ。そうかね、それなら問題ないね」


最悪な展開とは、まさに今ではなかろうか。

咄嗟についた先輩の嘘。確かに、みやがわクリニックという小児科はこの近くに存在してる。
でも、まさか宮川先生とお父様が知り合いだったとは。

もしこの先お父様が宮川先生と話す機会があったら……嘘がすべてバレてしまう。
そんなことになったら、もう取り返しはつかない。

「いやぁ、安心したよ」と言いながらお茶を啜ったお父様は、安堵の表情に満ち溢れている様子。


「近々、婚姻届けを提出します」

「わかったよ。少しでも早い方がいいね。莉乃さん。今後、仕事はどうするのかね?」


そんなことを聞かれても、もうなにも答えられない自分がいる。
だってもう、なにも考えらえないし。


「莉乃さんの仕事は、時短にする予定ですよ。金銭面で、負担をかけたくないですから」

「あ……」


これは、きっと本音ーー。
だって結婚の話が出たときに、そう言ってくれていたから。
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