再会したクールな皮膚科ドクターは、元・売れっ娘キャバ嬢をまるごと愛で包み込む
そうやって辛いことも楽しいことも、すべてが詰まったこの部屋を出て行くのは、やっぱり寂しい。


「莉乃、待たせてすまない」


玄関の前で思い出に浸っていると、背後から声を掛けられた。高森先輩が、お迎えに来てくれたようだ。


「あ……もう時間なんですね。鍵閉めて、大家さんに返してきます」


お迎えに来てくれたことで、やっと部屋を出ることができそうだ。
高森先輩のお迎えがなければ、ずっとここで思い出に浸っていたかもしれない。

部屋の鍵を掛け、1階の大家さんの部屋に行こうと階段を降りる。


「寂しい？」

「え？」


まるで私の心を見透かしたかのような質問に、思わず声が裏返ってしまった。

寂しくない、と言えば嘘になる。
でも、結婚するんだもの。別々に住むなんて、そんなことできないでしょう？


「寂しくないわけないです。ずっとここに住んでたんですから」

「……そうだな。ごめん」


階段を降りながら、高森先輩に本音をぶつけた。さすがに無謀な質問だと思ったのか、先輩は謝罪をしてくる。


「いいえ。でも、この生活があったからこそ、今の私がいるので」


先輩の顔を見ることもせずに、まるで独り言のようにそう言う。それは強がりでもなんでもなく、今の私の本当の気持ち。
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