再会したクールな皮膚科ドクターは、元・売れっ娘キャバ嬢をまるごと愛で包み込む
でも、誰もが1番初めからすべてこなせるわけではない。

俺だってそうだ。
最初から難しい症例のオペをできるわけではなかった。

今、難しい症例のオペの執刀医として手術室に立つことができているのも、何度もモニター画面でシュミレーションをしたからこそだ。

料理だって掃除だって、同じことだろう。


「莉乃、ゆっくりでいい」

「で、でも……」

「これから時間はいくらでもあるんだ。ゆっくり練習したらいい」


目に涙を潤ませたまま、莉乃は俺の顔を見る。
潤んだ瞳に上目遣いとは……それは反則じゃないか?

って、そんなことはどうでもいい。
これは……医療事務の資格なんて勉強している場合ではなさそうだな。


「そ、蒼汰さん……あの、でも……お腹、空きませんか?」

「え? あぁ、そう言わてみれば。でも、今日はなにか食べに行こうか」


俺がそう言うと、莉乃は素直に頷いてくれた。

手作りにこだわることはない。
疲れたときは外食したっていいし、手を抜いたっていい。

これから先、莉乃と過ごす時間はたくさんあるのだから、ゆっくりでいいんだ。


「莉乃、なに食べたい?」

「えっと……じゃあ、お寿司がいいです」


まさかの選択肢に、俺は思わず吹き出してしまった。
もう少し遠慮というものを知れよ。とも思ったけれど、俺も莉乃には甘い。

「行こうか」と、莉乃の手を握った。
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