山寺兄弟の深すぎる愛
そして三人は今、ソファに並んで寛いでいる。

あっという間に荷解きも済んでしまい、全く引っ越しをしたという感じがしない。

祭理は紅茶を飲みながら、あることを思い出していた。


『━━━━石狩さん、皆さん。
お忙しいのに、本当にありがとうございました!』
玄関先で、頭を下げる祭理。
風龍と虎空は、ベランダで煙草を吸っている。

『いえ。
旦那様のご命令ですから!』

『お気をつけて!』
そう言って見送ろうとすると、石狩が祭理を見据えていた。
他の部下は“失礼しました”と頭を下げて出ていったのに、石狩だけは立ったまま。

『………』

『石狩さん?どうしました?』

『祭理さん、辛くないですか?』

『え?』

『風龍坊っちゃんと虎空坊っちゃんのことです』

『……い、いえ…』
視線を逸らす。
何故か、石狩の目を真っ直ぐ見れなかった。

『………そうですか…
祭理さんに、これを……』
渡されたのは、石狩の名刺だ。

『え?』

『もし…“辛い”と感じる時があったら、僕に連絡ください』
そう言って、丁寧に頭を下げ出ていった。



「━━━━━祭理!!」

「え?」

「どうしたの?ボーッとして」

「ううん!」
石狩の名刺はすぐに手帳に挟み、隠した。
二人にバレたら、確実に処分される。

自分達以外との関わりを、極端に嫌悪する風龍と虎空。
祭理は、二人の手の中でしか生きられないのだから。

「腹減ったな!」
「何か作るにしても、何もないよ。買いに行かなきゃだよ」
「だな。石狩にさせりゃ良かった。
しかたねぇ…どっかで食って、買い出しに行くか!」

一度、着替えるために部屋に向かった祭理。
ドアを閉め、ため息をついた。

「はぁ…私、大丈夫かな?
お風呂の時間のあの二人っきりでさえ、緊張で死にそうなのに……
………………どうにかして断っ━━━━━━━━━
━━━━━━━無理じゃん!!」

着替えて戻ると、二人はベランダで煙草を吸っていた。
基本的に二人は、祭理の前では煙草を吸わない。

一日の中で吸える時間は、祭理が着替えている間、風呂に入っている間だけだ。
そして、寝る前に自室で吸っていたはず。

(でも一緒に寝るってことは、煙草吸えなくなるよね?)
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