寝顔
些細なことで喧嘩をした。すぐに謝れば良かった、と絢斗は後悔していた。あれから二週間経ったが、恋人の博美からは電話さえもなかった。
博美は過去の恋愛を根掘り葉掘り聞きたがる女だった。
過去があって今の自分があるのだと思うし、過去の恋愛で相手に成長させてもらった部分もたくさんあった、と絢斗は思う。たとえ別れた相手であっても、悪く言うようなこともしたくはない。だが、それが博美の気持ちをもやもやさせるようだった。なんだかんだと聞きたがるくせに、聞いたら聞いたで焼きもちを焼いたりする。しかし、そういう性分なのだから仕方がない。
聞いて納得するならば、と思って話したが、今となっては話さなければ良かった、と絢斗は後悔の念に駆られていた。
二週間前の週末、いつものように絢斗の家を訪れていた博美に、会社の飲み会があることを伝えた。
「女の人もいるの?」と聞かれた絢斗が「そりゃあいるだろ」と軽く返すと、博美から質問攻めを食らった。そして、絢斗の元恋人が、同じ会社にいることを知っている博美が、焼きもちを焼き始めた。
「あいつとは、もうなんもねえよ」
「だって別れようって言ったのは、絢斗君からなんでしょ? 相手はどう思ってるかわかんないじゃん」
またいつものやつが始まった、と思いながら、絢斗は博美の尖らせた唇を見つめる。
「いや、でも……あいつもう結婚してるし」
「でも心配なんだもん。お酒の勢いで……なんてこともあるかもしんないじゃん」
博美はそんなことを言ったが、絢斗は本当にもう彼女のことをなんとも思っていなかったし、そもそも飲み会に彼女が来るかどうかもはっきり知らなかった。ただ、彼女がいる総務部も参加と聞いていたから、来るかもしれないな、と思っただけのことだった。
「博美さぁ、浮気とか不倫のドラマの見過ぎなんじゃねえの?」
「はあ? 何それ。なんでそんなこと言うの?」
笑い話で終わらせようと思って言った言葉が、却って神経を逆撫でしてしまったようで、博美が血相を変えた。
「仕事の付き合いだろ。ガキじゃねえんだから、そんなことばっか言うなよ」
絢斗がそう返すと、博美は拗ねて出ていってしまった。だが、それはよくあることで、そんな時は近くのコンビニかカフェで時間を潰してから帰ってくるのだ。
いつものことだろう、と絢斗は高を括っていたが、結局そのまま博美は戻らなかった。
たったそれだけのことだ。
たったそれだけのことだから……
「心配しなくても大丈夫だ」と、ひとこと言ってやれば良かっただけなのに、それをしなかったのは、やはり思い上がっていたからだろう。
絢斗は大きな溜め息を吐いた。
博美は極度の焼きもち焼きだったが、裏を返せばこんな自分のことをそこまで想ってくれている、ということになる。
たいした男でもないのに……
絢斗は窓ガラスに映る自分を眺め自嘲した。
博美は過去の恋愛を根掘り葉掘り聞きたがる女だった。
過去があって今の自分があるのだと思うし、過去の恋愛で相手に成長させてもらった部分もたくさんあった、と絢斗は思う。たとえ別れた相手であっても、悪く言うようなこともしたくはない。だが、それが博美の気持ちをもやもやさせるようだった。なんだかんだと聞きたがるくせに、聞いたら聞いたで焼きもちを焼いたりする。しかし、そういう性分なのだから仕方がない。
聞いて納得するならば、と思って話したが、今となっては話さなければ良かった、と絢斗は後悔の念に駆られていた。
二週間前の週末、いつものように絢斗の家を訪れていた博美に、会社の飲み会があることを伝えた。
「女の人もいるの?」と聞かれた絢斗が「そりゃあいるだろ」と軽く返すと、博美から質問攻めを食らった。そして、絢斗の元恋人が、同じ会社にいることを知っている博美が、焼きもちを焼き始めた。
「あいつとは、もうなんもねえよ」
「だって別れようって言ったのは、絢斗君からなんでしょ? 相手はどう思ってるかわかんないじゃん」
またいつものやつが始まった、と思いながら、絢斗は博美の尖らせた唇を見つめる。
「いや、でも……あいつもう結婚してるし」
「でも心配なんだもん。お酒の勢いで……なんてこともあるかもしんないじゃん」
博美はそんなことを言ったが、絢斗は本当にもう彼女のことをなんとも思っていなかったし、そもそも飲み会に彼女が来るかどうかもはっきり知らなかった。ただ、彼女がいる総務部も参加と聞いていたから、来るかもしれないな、と思っただけのことだった。
「博美さぁ、浮気とか不倫のドラマの見過ぎなんじゃねえの?」
「はあ? 何それ。なんでそんなこと言うの?」
笑い話で終わらせようと思って言った言葉が、却って神経を逆撫でしてしまったようで、博美が血相を変えた。
「仕事の付き合いだろ。ガキじゃねえんだから、そんなことばっか言うなよ」
絢斗がそう返すと、博美は拗ねて出ていってしまった。だが、それはよくあることで、そんな時は近くのコンビニかカフェで時間を潰してから帰ってくるのだ。
いつものことだろう、と絢斗は高を括っていたが、結局そのまま博美は戻らなかった。
たったそれだけのことだ。
たったそれだけのことだから……
「心配しなくても大丈夫だ」と、ひとこと言ってやれば良かっただけなのに、それをしなかったのは、やはり思い上がっていたからだろう。
絢斗は大きな溜め息を吐いた。
博美は極度の焼きもち焼きだったが、裏を返せばこんな自分のことをそこまで想ってくれている、ということになる。
たいした男でもないのに……
絢斗は窓ガラスに映る自分を眺め自嘲した。
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