あんたなんかもう好きじゃない
私の心の葛藤に気づいているのか、真尋先輩は何も言ってこない。
指先から伝わる熱が心地良くて、でもそれを受け入れてしまったら雅也を好きでいることが出来なくなりそうで、結局私は何も言えない。
このまま駅に戻るはずが、いつのまにか北口のホテル街に移動していた。
妖しげに光るネオンたちをぼんやりと見つめ、いまだに私は迷っていた。
「藤沢、俺は今すぐ藤沢が欲しい。嫌だっていうなら潔く諦めるけど、そんな風に迷うならこのままホテルに連れて行くよ」
ああ、真尋先輩は気づいていた。
その上で、私が着いていく口実まで用意してくれた。
そこから先は、まるで誰かの撮った動画を見ているかのようだった。
しっかり手を繋いだまま東南アジアっぽい外観のホテルに入った時も、南国の花々の香りがする部屋に入った時も、どこか他人事だった。
これが現実だと実感したのは、宛てがわれた部屋の鍵を閉めるなり、真尋先輩が唇を奪ってきた時だった。
「んっ、先輩」
「唇開いて、舌出して」
この期に及んでも、私はどうしたいかわからなかった。
強いて言えば、何も考えずに流されたかったのかもしれない。
乗り気ではないが拒否もしないその態度は、先輩から見たらYESでしかなかったようだ。
私をキスで蕩かしながら、テキパキとスーツを脱いでいく。
そして、私の着ていたワンピースやストッキングも手際良く脱がせていった。
頭が茹だりそうになるほど熱く長いキスの合間に、あちこちを触られる。
その触れ方があまりにも気持ち良くて、はしたない声を上げずにはいられなかった。
甘ったるい声をあげれば嬉しげに笑い、触られて感じればもっとその様子を見ようとギラついた目で凝視する。
理性が吹き飛ぶほど激しく求められることの快感に、私は酔いつつあった。
痛いだけでまったく気持ちよくは無かったけれど、雅也と繋がれた喜びだけで胸がいっぱいになった初体験からおよそ3年。
ずっと放置されていた私の体は、ほとんど処女と変わらない。
真尋先輩の愛撫に反応はするものの、ぎこちなさは拭えなかった。
「楓、力抜いて」
不意に名前を呼ばれ、足を大きく割り広げられる。
雑誌や友達との深夜の猥談でしか聞いたことがなかったことが、今私の身に降りかかろうとしていた。
「え、ま、待って!シャワー浴びてっ、あああっ!!」
羞恥と興奮、そして快感で、私の口からは意味のない母音しか出なくなってしまった。