あんたなんかもう好きじゃない
DAY4
いくら土曜日でも、夕方からゆっくり浴槽に浸かるなんてけっこう贅沢な過ごし方なんじゃないだろうか。
晩ごはんも今日はサボってUberで好きなものを頼んで、就職が決まったわけでもないのに自分を甘やかし過ぎかもしれない。
夜明けまで蹂躙された体を労ろうと思ったら、これくらいダラダラしたいのだ。
シトラスの香りがする入浴剤を落とし、バスタブのお湯が鮮やかな黄色になるのを眺めながら、昨夜の記憶を反芻する。
空が白むまで一切の休憩を挟むことなく、真尋先輩は私を求めた。
ゴムを付け替えた回数、意識が飛んだ回数、喉がカラカラになって口移しで水を飲まされた回数、そのどれもが尋常じゃなくて、後半はもはやほとんど記憶が無い。
世の中のカップルは、毎回あれくらい激しい夜を過ごしているのだろうか?
付き合いたての頃だけなのか、子供が生まれるまでなのか、それとも一生なのか。
どこであの熱情が途切れるかはわからないが、少なくとも最初はみんなあれくらいなのだとしたら、今まで私は時間を無駄にして来たのではないだろうか。
雅也に執着し過ぎたのではないだろうか。
そんな風に思うようになってしまったということは、もう気持ちが真尋先輩に動いているのかもしれない。
もう、雅也のことは好きじゃないのかもしれない。
雅也を好きじゃなくなる自分を想像することが出来なくて、今まではそんなことは考えないようにしていた。
だが、雅也以外の人と体を重ねたことでだいぶ冷静になれた気がする。
浴槽に体を沈めると、筋肉痛でミシミシいっている体にじんわりと気持ち良い熱が広がった。
甘く爽やかな匂いに癒されながら、これから先のことを考える。
夏休みが終わる前に、雅也と話しをしよう。
真尋先輩と関係を持ってしまったことを正直に話そう。
そして、その時の彼の反応がどんなものであれ、もうこの関係は終わりにしよう。
そんな結論が静かに出たことに我ながら驚くが、なぜか少しだけ涙が出た。