あんたなんかもう好きじゃない
DAY5
失恋の定義とは一体なんだろう。
一般的には告白し玉砕する、好きな人が自分以外の人を好きだとわかるなどの、自身の恋が成就しないことを指すものだろう。
だが、恋人との関係が終わるなど、すでにある関係性に終焉が来る場合も失恋と言える。
じゃあ今回は?この場合はなんだ?
気づいたら俺は自宅にいて、実家からかっぱらってきた日本酒を空けていた。
親父のお気に入りの獺祭は、すでに半分ほど胃の中だ。
まあまあ長い期間付き合ってきた女性に別れを切り出された。
これは定義だけでいえば失恋に分類出来るだろう。
問題は、俺が楓を好きだったかどうかだ。
どこまでも俺を好きでいてくれて、制作に夢中になって連絡を返さなくてもまったく怒らないどころか全力で支えてくれて、俺にはもったいないくらい良い彼女だった。
料理も美味くて、講義についていけなくなればいつでも教えてくれて、俺の趣味や好みも把握してくれていて、思い返すと良いところしか出てこない。
ここまでしてくれる人がいれば、だいたいの男はベタ惚れになるだろう。
なのに、俺は楓の容姿が好みじゃなかったという理由だけで、異性として好きになることが出来なかった。
あと身長が10cm低ければ。
胸のサイズが今の3分の1くらいだったら。
もっと顔立ちが幼ければ。
声があと半オクターブ高ければ。
楓が良い彼女だと痛感するたびに、そんなことを続けて思ってしまう俺はきっとどうしようもない男だ。
本物の10代じゃなくたって良いけれど、それに近い見た目じゃないと興奮出来ない。
そんな自分の性癖に気づいたのは、悲しいことに楓と付き合ってからだった。
初めてした日は、気合いと妄想力をフル活用し、なるべく楓の体を見ないようにすることで乗り切った。
事後の感想は、どうにか終わったの一言に尽きていて、この時点で別れていたほうがお互いの為だったかもしれない。
セックスさえしなければどこまでも心地良い関係だった。
だからか、いつしか俺の中には別れるという選択肢がなくなっていた。
楓が自分から迫ってくるような女じゃないから、向こうもそういうの興味ないみたいだし、俺たちはこれで上手くいっている。
そんな風に思っていた。