あんたなんかもう好きじゃない
いまいちわからない、と無言で訴えてくる表情豊かな親友に、もう一つ言っていなかったことを教える。
「それにね、真尋先輩が好きだったのは雅也が好きだった私であって、私そのものじゃなかったと思うの。告白を断った理由、実はそれが一番だったりする」
「え、えっ?待って、どういうこと??」
沙也香は余計に混乱した様子だ。
眉をひそめて説明を求める彼女に、私はまた苦笑いしか出来なかった。
「これも言ってなかったんだけどね、雅也と別れてからまた真尋先輩とホテル行ったの。告白を保留にしている段階で」
「ええっ!?ちょ、いいや、まずは全部聞こう。それで?」
「ヤリました。でもね、なんか違った。前回に比べて真尋先輩が冷静というか……熱中している様子が無かったんだよねえ。妙に俯瞰的でさ、おかげで私もいまいち集中出来なくて。事後に話し合ったのよ。この現象なんだろうって」
「二人ともオープンだなぁ」
「今思うと真面目に何やってたんだろって感じだけどさ。で、わかったのよ。真尋先輩は雅也の彼女なのに報われない私が好きだったのであって、別れてフリーになった私には若干興味がなくなりつつあった」
あんぐり、という古典的な擬音語が似合うくらい沙也香は口をポカンと開けて絶句した。
頭が追いついていないのか、視線もあらぬ方向に泳いでいる。
「何それ……意味わかんない」
「私も。これから先もきっとわからない。でも、そういう性癖の人もいるって勉強にはなった。それから、浮気と本気の違いが自分でわかる人間だったって知れたのが、今回の一番の収穫かな」
「確かに、そこで流されずに冷静な判断が出来たのはすごいね」
「でしょ?経験ほとんど無いわりには、なかなかでしょ?」
えっへんと胸を張れば、沙也香が背伸びして頭を撫でてくれた。
我ながら、今年の夏は人間としてかなり成長したと思う。
「ってわけで、しばらく恋愛はいらない。また誰かをすごく好きになる日が来るかもしれないけど、今は恋愛無しの生活がしたい」
「今の時代彼氏いなくたってどうって事ないし、それも有りだよ。しばらくは女子会三昧だね」
「それ最高。あ、クリスマスどうする?一緒にどっか行く?」
「いいねぇ。お互い無事就職決まったし、今年はちょっと贅沢にホテルビュッフェとかどう?いつもの面子も誘ってさ」
「うわ、楽しそう!」