あんたなんかもう好きじゃない
楽しい冬休み計画を立てていたその時、見慣れたシルエットがロビーの入り口に現れた。
約1ヶ月ぶりに雅也の姿を見たが、もう以前ほどは胸が痛まない。
目が合ったから小さく手を振ると、困ったように目を逸らされた。
不思議なことに、私と別れてからずっと落ち込んでいるようだ。
そこだけを切り取って見れば、実は彼も私を好きだったんじゃないかなんて思いそうになる。
だけど私は知っている。
雅也は私を異性としては好きじゃなかった。
そして、別れてそれなりに時間が経った今ならわかるけれど、私の気持ちも愛というよりは情に近いものだった。
それでも、長く付き合っていたから、ふとした瞬間に気持ちが引き戻されそうになる。
別れ話の後に、雅也の家に私物を取りに行った時、よく二人で行った店の前を通った時、旅行先で買ったお揃いの食器を使う時。
彼を好きでいるのと、彼に愛されるのを諦めるのと、どちらがより簡単なのかは、実のところいまだに答えはわからない。
けれど、何も進まない関係に自分からハマって鬱々としているよりは、多少痛みを伴っても未来が見える道を歩むほうがよっぽど健全なはずだ。
だから私は今日も自分に言い聞かせる。
あんたなんかもう好きじゃない。