あんたなんかもう好きじゃない
DAY2
ここのところ俺は悩んでいた。
付き合って半年ほどの彼女と別れた時に、〝誰かの代わりでいるのはもう嫌〟と言われた。
またそれにより、本当は後輩の藤沢楓のことが好きだったのだと自覚してしまった。
そして、自分の気持ちを知ったそのタイミングで藤沢と二人きりで飲む機会があり、彼女が彼氏である水沢とうまくいっていないことを知った。
これらがたった3日のうちに立て続けに起きて、あまりの展開の速さに気持ちが置いてきぼりになりかけていた。
さらに超展開はいまだに止まらず、普段ならLINEを送ったところで高確率で未読無視をしてくる水沢が奇跡的に捕まり、今夜二人で飲みに行くことになった。
来てる。これは来てる。
何か、幸運的なものが。
居ても立っても居られなくなり、約束の時間より30分ほど早く、俺は待ち合わせ場所の小料理屋に入った。
今夜の水沢の態度次第では、俺にもチャンスが巡ってくるかもしれない。
そう期待する一方で、ひたむきに水沢だけを求めてもがき傷つく楓の顔が頭にちらつく。
藤沢の幸せを考えたら、水沢との橋渡しをキチンとするべきなのだ。
そう自分に言い聞かせ、浮かれそうになるのを必死で戒めているうちに、あっという間に約束の時間は来た。
「お疲れ様です」
暖簾をくぐり現れた水沢は、相変わらず良い男だった。
185cmはある長身に見合った長い足を窮屈そうにテーブル下におさめつつ、軽く会釈してきた。
10cm以上身長差があるため、向かい合って座るとその圧迫感にため息が出そうになった。
整った顔と身長、両方が揃った水沢が羨ましく妬ましい。
「おう、お疲れ。とりあえずビールで良いか?」
「はい。あ、小腹空いているんで、何かつまみも欲しいです」
ビールと、揚げ出し豆腐や焼き鳥盛り合わせなどの腹にたまりそうなものを適当に頼み、運ばれて来るまでの間に軽く探りを入れた。
「最近どうよ?っつーか、こうしてサシで飯食うのいつぶりだ?」
「うーん半年ぶりくらい、ですかね?最近は、けっこう制作が落ち着いて来ました。楓のおかげで、どうにか留年せずに単位も取れてます」