あんたなんかもう好きじゃない


楓、と呼んだ時の慣れ親しんだ響きが思考に割って入って来て、途端に言葉にしがたいイラつきに襲われる。
そのドス黒い感情に蓋をして当たり障りのない世間話を続け、二杯目のビールが来たタイミングで、俺は本題に入った。


「ところでさあ、ちょっと踏み込んだ話しになるんだけどいいか?」

「なんですか?」

「なんでレスになったんだ」


傾きかけていたビールのジョッキをテーブルに戻し、水沢は真顔で俺を見つめた。


「……楓が相談したんですね」


その声のトーンから、ほぼ確信していることがわかった。
取り乱すことなく、むしろどう話しを切り出そうか悩んでいるように見える水沢に、俺は苛立ちを忘れた。

「これから話すことを誰にも言わないって約束出来ますか?」

散々悩んだ挙句に出たその言葉はあまりにありきたりだが、水沢もまた悩みの渦中にあることがわかる一言だった。

「言わない。って、口で言うだけじゃ信用出来ねえよな」

録音アプリを開き、今日の日付とこれから聞く話しを口外しないと誓う言葉を録音し、水沢のLINEに送る。
そこまでするとは思っていなかったのか、水沢は驚いた表情を隠さなかった。

「こんなもんでも無いよりはマシだろ?」

「ここまでしてもらったし、先輩は誰かに話したりしないって信じます」


一瞬の躊躇いの後、水沢はスマホを差し出してきた。
ロックのかかっていないその画面に映っているのは、俺もたまに世話になっているAVサイトのホームページ。

「閲覧履歴を見てください」

その一言に従って、履歴を見る。
ズラリと並んだタイトルとサムネイルは、見事に同じ系統であった。

小柄で胸が薄く、手足が短く、ぱっと見中学生くらいに見える童顔の女優達が、セーラー服やスクール水着で絡んでいる。
そう、つまり水沢は……。

「ロリコンなんです、俺」

改めて本人の口からその言葉が出てきて、俺は呆気に取られた。
確かにこれは、絶対に口外出来ない。

どうしても間が持たなくて、ビールを一気に流し込みおかわりを頼む。
あまりに想定外の方向に行ったからか、話しを切り出すにも滑らかにはいかない。


「あー、その、AV女優で抜けるってことは、本物の中学生や高校生じゃなくて良いんだな?」

「はい。見た目が幼ければ歳は何歳でも。楓はあの通りの外見だから、はっきり言って俺の性癖にはまったく引っ掛からなくて」


確かに藤沢は水沢の好みとは真逆の外見だ。
そこそこ身長があり、肌が白く、胸も尻もボリュームがあり、ウエストはしっかりくびれがある。
一般的な嗜好の男なら、間違いなくがっつきたくなる容姿だ。

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