あんたなんかもう好きじゃない
DAY3
真尋先輩から飲みに誘われたのは、夏休みが半分終わった頃だった。
前回二人で飲んでから、およそ2週間経過している。
雅也のことで話したいことがあると呼び出され、週末に池袋の西口にあるバーで待ち合わせることになった。
真尋先輩の勤める会社からほど近く、ご飯も美味しいおすすめの店らしい。
約束の19:30より10分前に着いたが、もう真尋先輩も到着していた。
ネクタイを緩めてつまみに出されたピスタチオを齧っている姿は、私の知る大学の先輩ではなかった。
大人の男性らしさというものに当てられたのか、なんだか妙に緊張してきた。
今着ている白と青のストライプのワンピースが子供っぽく思えてきて、せめてセットアップにすれば良かったと後悔した。
勇気を出してドアを開けたその瞬間、真尋先輩としっかり目が合った。
軽く会釈して近づけば、向かいではなく隣の席を勧められる。
「お疲れ。今日は何も無かったのか?」
「お疲れ様です。そうです、バイトも面接も何も無くて……あの、仕事終わりにお時間をくださりありがとうございます」
「気にすんな。それより先になんか食おうぜ。嫌いな食べ物とかあるか?」
「嫌いってほどでは無いですけど、ニラとかにんにくとかの匂いが強い野菜は得意じゃないです」
「ん、了解」
和風スパゲッティとサラダ、チーズの盛り合わせを頼んだ後、私の分のピスタチオが運ばれてきた。
食事中も、食後にカクテルを頼み始めてからも、先輩は雑談を振るだけで雅也の話しはしてこない。
それはなぜなのか、そんなに話しにくい内容なのか、と悪い想像だけが頭の中で膨らんでいく。
二杯目のカクテルが半分ほど空になったタイミングで、真尋先輩は唐突に切り出して来た。
「あれからさ、水沢と二人で会った。それで、なんで藤沢とレスなのか聞いたよ」
飾ることも、遠慮することもないそのストレートな言葉に、心臓が嫌な音を立てる。
その続きを聞きたいような、聞きたくないような、どっちとも言えない感情に支配されて、私は必死で平静を装った。
「水沢はな、いまだに初恋の人を引きずっているらしい。その人と藤沢のタイプがあまりに違い過ぎて、その気になれないのだと言っていた」
それは、あまりに予想外な答えだった。