あんたなんかもう好きじゃない
「そう、なんですか……」
不思議と納得している自分がいた。
一つのことに深く没頭する雅也のあの性格を思えば、なるほどとしか思えなかった。
がっかりするよりも、答えが見つかった爽快感と、一抹の寂しさ、そしてこれから先の関係をどうするかという悩みが心を支配する。
「なんだ、思ったよりも平気そうだな」
「理由がわからずにモヤモヤし続ける時間が長かったからですかね。私だけが好きなのは、今に始まったことじゃないし……」
そう、今に始まったことではない。
いつも、私だけが雅也を求めていた。
雅也はそれに応えられる範囲で応えていただけであって、彼が私を欲したことはこれまで一度もなかった。
きっと、これからもそうだ。
「絶対に振り向いてくれない人を好きでいるって、きついですね」
「前にも言ったけど、俺が水沢ならこんな良い女放っとかない。こんな彼女がいたら、他の人なんかどうでも良くなる」
真尋先輩の熱がこもった声を聞いて、勝手に心臓が暴れ出した。
動揺していると気づかれたくなくて、ついカクテルを飲むペースが早くなる。
「もう、これも前にも言いましたが、リップサービスが過ぎますよ!本気にしちゃったらどうしてくれるんですか」
「本気にして欲しいからこんなこと言っているんだよ。好きでもない人相手にこんなこと言うほどチャラくないぞ、俺は」
今度こそ、本当に頭がどうにかなりそうだ。
今自分が置かれている状況が理解出来なくて、私はただ先輩から目を逸らすことしか出来なかった。
無言の時間がしばらく流れる。
会計を済ませて戻って来た真尋先輩に手を引かれ、私たちはバーを出た。
なあなあにしてはいけない。
はっきりダメだと言わないと。
手を、振り払わないと。
私は雅也が好きだから……。
頭に浮かんでは消える言葉が、徐々に力を無くしていく。
同時に、今まで見たことの無い新しい自分が蠱惑的に囁いた。
本当に嫌なら手を振り払えば?
黙って繋いだままでいないでさ。
正しい人でいたいからそんなつまらない言い訳をしているんだよ。
誰かに激しく求められるって、愛されるって、気持ちよくない?
悪魔の声が、どこからともなく聞こえてくる。