ねぇ、悪いことしよ?

 一息つく翼。その顔に冗談なんてなくて、本心だということが伝わってきた。伝わったからと言って、信じる信じないはまた別の話。

「それをするにはどうしたらいいか。馬鹿なりに考えましたよ。答えなんてあるかわからない。考えるだけではわからないから、先輩のクラスに行って部活の先輩に用事があるふりして、先輩のことちょっと見てたんです。そしたら、ずっと先輩は、悲しそうな顔して本を読んでるんです。誰とも話さず、一人で何かを耐えるように座っている。なんとなく俺には、人と関わりたい人なのかもしれない、というのが伝わった気がしたんです。傲慢ですよね。笑ってくれてかまいません」

 そういってほほ笑む翼。でも、私の心をズバッと当てられた気がして、少し今までの心の重さが軽くなる。

「笑わない。言い方は傲慢かもしれないけど、あってるから、大丈夫」
「ありがとうございます」

 フワッと笑う彼は、夕日に溶けてとても美しかった。いつもの彼はどこに行ったのやら。

「それで、話を続けますね。先輩のクラスによく行くようになったらたまたま、一大イベントの体育祭が近づいてきました。これはチャンスかもしれない、先輩がクラスになじむ。そしてもし、先輩が実行委員になったら、クラスの人話す機会が増えるんじゃないか。そしたらなんと、神は俺に味方してくれたみたいです。羽奈先輩が実行委員に選ばれました。だから俺は、会長にお願いして先輩を実行委員長にしてもらいました」

 まあ、その交換条件でスタ●新作10回分券作られました。という彼は、すごくかわいらしかった。さっきからギャップがすごくて私の心臓に悪すぎる。こう、なんというか、胸をぎゅっとされる。

「でも、先輩が乗り気じゃなくて嫌がってるのも分かっていました。だって、顔にそのまんま出てるんですもん。でも、その中に、少しだけうれしそうな顔が見えた、気がしたんです。これが、先輩にとっても、俺にとってもいいのかなんてわかりません。でも、でも。俺は、不満な顔をしている中にある微笑み見たいなのを見れてうれしかったんです。だからそれを信じました。誰得かは本当にわかんないですけどね」

 やっとなぜ実行委員長になったのかとか、彼が私に何を求めているか分かった。だがただ一つ、疑問が残る。なぜ彼は私が運動苦手なことを知っててここまでしたの?それを聞いてみると

「それは、ただ俺が好きなんです、運動。だから、先輩が困ってたら助けれるじゃないですか。恋する男の子は、好きな女の子に頼れてかっこいいところを見せたいものなんです」

 と返ってきた。たぶん、私には一生わからないであろう感情だ。

 もはや彼が私に何を言いたいのかとか、私が何を思ってるかなんてわからない。そのくらい滅茶苦茶で頭が混乱してる。
 
 でも――

 これはこれで、たまにいいかもしれない。今まであまり人と関わらなかった私にいい経験になった。そこはちゃんと感謝しないとな。
 勝手に自己完結しようとしていると、翼から声がかかる。

「これでわかってもらえましたか?俺が先輩にここまでする理由。めっちゃ自己中ですけど」
「うん。伝わったよ。ありがとね」
「いえいえ。それで提案があるんですけど、一ついいですか」
「うん」

 ふー。彼が深呼吸をする。

「俺と体育祭の種目、サボりませんか?」
「え?いいの?」
「はい」
「でも、同じ種目じゃないと一緒にサボれないよ?」
「はい。知ってますよ」
「え、じゃあ、なんで?リレーとか出るんじゃないの?」
「出ませんよ。先輩と同じ大玉です」
「ほんとに?」
「ほんとです」

 なんかテンポがいい会話をする。そして沈黙が訪れる。でも、それは全く緊張も息苦しさも感じない、やさしいやさしい沈黙だった。
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