ねぇ、悪いことしよ?
「もしかしたらさ、翼にとっては楽しいかもしれない。でも、運動が苦手ってことに気がついて、みんなと同じ動きができなくて、私のせいでダンスとかそろわなかったのを見たとき、嫌いになったんだよ。嫌いって言って逃げてると思うかもしれない。でも、迫ってくるボールは怖いし、どんなに練習しても足は速くならないし、手と足で違う動きをして表現することなんてできなかった。その時の絶望は貴方にわかる?どんなに練習してもできないの。そんな奴が、体育祭を楽しめるか。答えは否なの。でも、今年はくじで実行委員になっちゃったし、君がなぜか私を実行委員長にしたから、もともと嫌なのに滑車がかかった。そもそも運動とか関係なしに、私は友達の作り方がわからないからクラスにもなじんでない。それなのに、クラスの人とかかわる必要がある。それだけでもう無理。私の心は持たない。でも、『やって』って言われたことはそこそこにする。それだけじゃダメ?私よりうまい人がいて、私が足を引っ張ってしまうのにいなきゃダメ?いて困る人いる?むしろ、やりやすくなるんじゃない?だから私はうまくサボれる方法を考える。その代わりに、苦手なりに今は委員長を頑張る。それじゃダメ?」

 たぶん、私史上最長と思われるセリフを彼にぶつける。そして、いつの間にか立っていた椅子に座って落ち着いてやっと、気が付いた。

(言い過ぎた)

 彼の反応をうかがう。いきなりこんな訳の分からないことを言われて困惑しないほうが難しい。私は幻滅されたと自分で考え、自分にショックを受ける。なぜだろう。

「羽奈先輩、ちゃんと言えるんですね」
「――へ?」

 この子はいったい何を言い出すの?

「俺、気が付いてたんですよ。先輩が運動嫌いってことも、クラスになじめてないことも。でも、だからこそ、運動の楽しさを知ってほしいと思った。クラスの人と話してほしいと思った。自分の殻にこもるだけじゃ先輩は自分を傷つけてしまいそうだったから。だから、ス●ッチャに誘った。少しでも楽しんでほしかったから。だから、実行委員長に選んだ。クラスの人と関わる機会が、普通の委員より多いし、他クラスの人とかともかかわる機会が増えると思っ――」
「なんで?」

 彼はまだ話そうとしていたが、気がついたら遮っていた。

「なんで私なんかにここまでしてくれるの?私なんかにそんなことしたって翼には見返りはないはずなのに。ねえ、なんで?」

 恥ずかしながら、最後のほうは声が小さくなってしまった。どんどん弱々しくなる声で彼に何が届いたのだろう。そもそも私の声は届いたのだろうか。

「先輩、場所かえませんか?ここでは話しにくいので」
「うん」

 そう言うなり彼は、光の速さで一冊だけ購入し、他の本をもとの場所に返し、自然に私の手を取り、歩き出した。買った本の題名はわからない。気になったけど、聞かなかった。

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