(仮)花嫁契約 ~ドS御曹司の愛され花嫁になるまでがお仕事です~
出来る事なら「そうですか、それでは失礼させて頂きます」と言ってこの場から逃げ出したい気持ちなのだけれど。もし私がそうすれば、きっと神楽 朝陽は困るに違いなくて。
それでも彼の父は私をここから追い出したいようで、その視線と表情であからさまな圧をかけてくる。すると私の中の負けず嫌いがむくむくと顔を出してきて、何故か今まで以上に余裕のある笑みを浮かべることが出来てしまった。
「鈴凪、父はああ言っているが君はどう思っている?」
「あら? 私は朝陽さんにさえ選んでもらえれば、他の誰に相応しくないと言われても気にしません。私がなりたいのは神楽グループの嫁ではなく、貴方の妻ですから」
まさかこの状況で私に丸投げされるとは思ってなくて焦ったが、自分にしては良い答えが出せたと思う。もちろん神楽 朝陽のスペックに目が眩みそうになるのは仕方がないと思うけれど、それでも彼の中身を愛せなければ私は結婚なんてしたくはない。
「鈴凪はこう言っていますし、俺も彼女の考え方が好ましいと思ってます。生涯を共にする相手は、俺には彼女以外には考えられないので」
これってお芝居なのよね? 神楽 朝陽の真剣な表情に、本気で言われてるような気がしてなんだか落ち着かない。こんな風に真っ直ぐに自分を必要とされた事って、流の時には一度もなかったから。
嬉しい気持ちと同時に、これがすべて作り話だというどうしようもない虚しさも味わってしまう。