(仮)花嫁契約 ~ドS御曹司の愛され花嫁になるまでがお仕事です~
その契約は強制で
「ちょ、ちょっと待って! どこまで行くんです、もうとっくに会社も出ちゃったんですけど」
「うるさい、さっきまでビビッて小さくなっていたくせに。親父が見えなくなった途端、ぎゃあぎゃあ騒ぎだすな」
自分だって人のこと言えないじゃない、社長室を後にして素に戻った神楽 朝陽の言い方にイラッとしたが我慢した。あの時の彼は笑顔で冷静に見えたが、内心ではそうでもなかったのかもしれない。
神楽社長が昔の女性の話をした時は特に、神楽 朝陽の様子が変だった気もするし。いきなり恋人役を任された私には分からないことが多すぎて。
そんな事を考えていたら、神楽 朝陽は有名なデザイナーホテルのドアをくぐってそのまま奥のエレベーターに向かって歩いていく。
……何故、ホテル? それもこんな真昼間から。寝るにはどう考えても早すぎるし、私が連れて来られる理由も分からないのだけど。
「あの、ここには何の用で?」
「は? 用があるから来たんだろ、いちいち聞かなくても分かるだろうが」
いいえ、全然分かりません。そう言いたいけれど、言ったら今度こそ酷い目にあわされそうなので黙っておくしかない。
彼に続いてエレベーターに乗り込むと、押されたのは最上階のボタン。本当に何がどうなってるのか分からないまま、エレベーターから降ろされ強引に目の前の部屋の中へと押し込まれてしまった。