(仮)花嫁契約 ~ドS御曹司の愛され花嫁になるまでがお仕事です~
重ね見た切なさに

「それも全部、業者に任せればいいだろう? 今さら、何がそんなに恥ずかしいんだか」
「放っておいてください! っていうか、片付けが終わるまで出て行っててもらえません?」

 荷物が少なかったのもあるが、あっという間に私のアパートから必要なものだけをマンションへと移動させた朝陽(あさひ「)さん。部屋の解約手続きまでしかけた彼を、契約終了後に帰る場所がなくなったら困ると説得するだけでも大変だった。
 朝陽さんはその時にはちゃんと部屋を用意してくれると言っていたが、そこまで世話になる理由もない。

「ここに見られて困るほどのものがあるとは思えないが? どうせ服や下着、アクセサリーの類は全部買い換える予定だしな」
「はあ? 何でそうなるんです?」

 いくつかの段ボール箱に詰められた中身、それをクローゼットに片付けている最中にそんな事を言われた。節約はしていたが、身だしなみはそれなりに気を使っていたつもりなのに。
 それにお気に入りの服だってある。このワンピースもそう、流が付き合って初めての誕生日に買ってくれたもので……と、しんみりしていると。

「……鈴凪(すずな)は他の男にプレゼントされた服を着て、俺の隣に立つつもりか?」
「朝陽さんは読心術、使えるんですか?」

 考えていたことをズバリと当てられてしまい、背筋に冷たいものが走る。分かってはいる、今の私の婚約者は(仮)とはいえ朝陽さんなのだ。ここまで来て未練がましく、元カレからの贈り物を持っているべきじゃない。

「そんな顔してれば嫌でも分かる、俺以外の人間の前では気を付けろ」
「はい……」

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