海のように輝く君色を、もっと知りたい。〈ボーイズライフ〉
 世界の歪みを感じさせる陽炎がアスファルト上で揺れている、そんな休日。

「カラオケでも行こうぜ」

 同じクラスの荒木から電話が来て、昼ごろ隣町の駅付近を歩いていた。この辺りは休日はいつもほぼ無人。だけど今、不自然に人が多く賑やかな場所があった。大きいカメラやマイクも目に入ってくる。

「映画かなんかの撮影かな?」

 荒木はそう言いながら賑やかな場所に近付いていった。俺もついていく。

 カメラの視線の先には格好いいオーラを出しすぎている男がいた。そういうのあんまり詳しくないけど多分、有名なアイドルとか俳優だろうか。その男の髪の毛を若い女の人が整えている。

 そしてなんと、その男の後ろにあいつもいた。あいつは俺らと同じくらいの年齢の女と立っていた。

 同じ教室で過ごし、俺の前の席にいるあいつ。あいつ……。名前が思い出せない。

「あれ、野田じゃね?」

 荒木もあいつの存在に気がついた。

「そう、野田!」

 出席番号順に座っているからやつは俺の前の席にいる。なのに今一瞬名前を忘れた。そのくらいやつの存在は俺の中では薄い。

 野田はさらさらした長い黒色の前髪で自身の目を隠していて、表情が読めない地味なヤツ。気配が全くなく静かで、クラスの中では幽霊みたいな存在だった。それに、誰にでも敬語でぼそぼそと話していて、こういう人間は何を楽しみにして生きているのだろうと考えたことがある。自分もそれといって楽しいことなんてないけれど。

「隣にいる女、誰だろ。彼女かな」

 俺はぼそっと呟いた。
 荒木がまじまじと野田とその女を眺める。

「いや、違うんじゃね?ってか彼女とか、いなさそうじゃんあいつ」

 野田は絶対に学校では見せないような表情をしていた。全力で笑っていた。

 眺めていると野田がこっちを向いた。
 視線が一瞬ぶつかるとあいつはすぐそらしてきた。さりげなく身体ごと向こう側に向けた。多分、気づかれたくなかったのだろう。

「いくか」
「おう」

 俺は荒木に声をかけ、見られたくなさそうな野田を気遣い、すぐに撮影場所から離れた。


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