この恋の化学反応式
「こんにちは」

私は塾の扉をゆっくりと開けた。

「あ、有川さんこんにちは」

塾長が私の顔を見て、挨拶してくれる。
小さくて生徒数も少ない塾なので、彼は生徒全員の顔と名前をきちんと覚えているのだ。

ふと視線をずらすと、塾長の横には知らない男の人が立っていた。
塾という場には似合わない明るい茶髪で、意志の強そうな大きな目が特徴的な、整った顔をしている。

目が合うと軽い会釈をされた。

「こんにちは、有川さん!今日から有川さんの担当教師になる橘です」

「こんにちは」

「橘くんは今大学3年生で、夏の間のバイトに申し込んでくれたんだ。教育学部で高校の教員を目指してるんだよ。あ、ちょうど有川さんが苦手な化学が専門だったっけ?」

塾長が橘さんの背中を軽く叩きながら、彼の顔を覗き込んだ。

「そうです。有川さんこれから一緒に頑張ろうね」

「あ、はい。よろしくお願いします」
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