この恋の化学反応式
(また失望されちゃった、、、)

足早に塾の階段を降りながら、さっきの塾長の言葉を思い出して泣きそうになる。

分かっていたことなのに、他人からその事実を突きつけられるとこうも辛いものなのか。

涙を堪えながらふと階段の下に目をやった時だった。

「お、有川。おつかれ」

財布を片手に階段横にある自動販売機の前に立っていた橘先生が声をかけてきた。

「おつかれさまです、、えっと、それじゃあ」

早く帰りたいという一心で、会話を切り上げようと急いで横を通り抜ける。

「ちょっと待てよ、模試お疲れって事で何かジュース奢るから」

「今は別に喉乾いてないので遠慮しときます」

軽く頭を下げて、出口のドアに手をかける。

「有川」

外に出ようとすると、先生に腕を掴まれた。

「え、、なんですか?離してください」

思わず先生をキッと睨みつける。

「大した用じゃないなら帰らせてください」

「大した用はないよ。でも帰ったらお前、すぐに机に向かって勉強するだろ。ちょっと休んで行けよ」

「休んでたら駄目なんです!今回の模試だって、、」

語尾が掠れて、涙声になる。

どれだけ親身になって教えてくれても、結局本番頑張らなくちゃいけないのは私1人で、そう考えると休んでいる暇なんて私にはないのだ。

「なんでそんなに焦ってるんだよ」

「先生に何がわかるんですか!」

思わず大きな声でそう言う。

「このままじゃ、失望されちゃうんです。親にも、担任の先生にも、、、橘先生にも」

先生は、驚いたような顔で私を見つめていた。

「そんな、失望なんて、、」

「親からも、担任からも根拠がないのに勝手に実力を決めつけられて、失望されて。先生も同じなんじゃないんですか?」

皮肉のこもった声でそう言う

「いいですよね、大人は。勝手に期待押し付けて頑張れって言っとけばいいんですから」

言いながら涙が零れた。なんで私はこんなことを先生に言ってしまっているのか。

「教師になるって夢を持ってる先生が羨ましい。私には夢も目標も何も無い。夢を持ってる先生には私の気持ちなんて分かりっこないですよ」

先生は何にも関係ないのに。
こんなの、自分から失望されに行っているようなものだ。

「私、自分がなんのために頑張ってるのか分からないんです」

「有川、、、」

ふと顔を上げると、他の塾生が何事かとこっちを見つめていた。
急に恥ずかしくなり、服の袖で涙を拭う。

先生は自動販売機でカフェオレを買って私に手渡し、

「とりあえず場所を移そう」

と空いている教室に私を連れて行った。
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