Immoral
繁華街のコインパーキングに車を入れて歩いて映画館に向かった。着いた時には予告編が始まっていたが空席があったのでなんとか座って見られた。

公開されたばかりのSFアクション系の映画でほぼ満席に近かった。

早川さんは映画に集中しているようだったけれど私はその間もずっと緊張していた。

エンドクレジットが流れ人の入れ替えが始まるとぼんやりしていた私の手を早川さんが取って出口まで誘導した。片手で押し寄せる人波をかきわけもう片方の手で私を出口へ引っ張ってくれた。

たったそれだけの事でさえ心臓が音が聞こえそうなほどどきどきした。

そのままずっと手を引かれていたかった。強引ではないけれど強くてしっかりとした手。大人の男の手。

なんとか人波に逆らってホールまで出ると早川さんはごく自然に手を離した。人波の中に私が流されないようにしただけのことでほかに何の意味もないという感じ。私はちょっとがっかりした。

「飯でも食おうか。何がいい?」

早川さんは言った。

「早川さんは何が食べたい?私は何でもいい。」

早川さんの端正な横顔を見上げて私は言った。食べ物なんて喉を通りそうもないほど舞い上がっていたから。

フォークでパスタをつつきながら時々早川さんの顔をみた。あまりしげしげと見るのは恥ずかしいがつい目が行ってしまう。

顎の線がすっきりしているのにちょっと骨っぽいところが男を感じさせる。触れてみたくなるような完璧な骨格。


早川さんが不思議そうな顔をして私をみた。

「ごめん、今日は車だし夜アポイントが入ってるから酒は飲めないな。今度にしようね。」

ずっと年下の子に言い聞かせるような言い方をする。この時だけではなくいつもそんな感じだ。そんな話し方をされるとわざと甘えてわがままを言ってみたくなる。

「うん。」

でもこの時は素直に頷いて私は言った。

「夜、お仕事だったのによかったの?」

「大丈夫だよ。遅くまではいられないけど夕方までは時間あるから大丈夫。」

そう早川さんは答えた。

「ありがとう。」

と私は言った。

「ごめん、本当に最近おかしくなってきちゃって。忙し過ぎるね。」

「前はそうでもなかったの?」

「うん、前から忙しいには忙しかったけど。ここまでじゃなかったね。」

「そんな忙しい時に時間作ってくれてありがとう。」

私は本当にうれしくてそう言った。忙しい合間の隙間のような時間でも私との時間を作ってくれるなんて。

「いや、丸一日空く日はほとんどないんだ。こんなふうにしか時間とれなくてごめんね。」

「全然。ごめんなんて。私、うれしい。」

私は笑顔で言った。早川さんも笑顔を返してくれた。私に向けられたその笑顔も完璧すぎて胸が躍った。
< 10 / 74 >

この作品をシェア

pagetop