Immoral
「カッコイイ?誰か似てる有名人とかいないの?」

私は今度こそ本当に真っ赤になったらしい。

「似てる人とかわかりません。別に普通の人ですよ。」

言いながらも耳まで赤くなっていくようだった。早川さんがかっこいいかどうかはわからない。でも私は初めて会った時から早川さんの外見に惹かれた事は事実だ。

背が高くて手足が長く何もかもが細長い印象。地味だけれど整った顔。少し暗い感じの表情。どれを取っても私のタイプだった。

「彼氏に夢中って感じだね。」

と先輩達にひやかされた。否定してもバレバレなので小さく

「はい。」

と言った。
それからしばらく質問攻勢が続いた後、やっと先輩達の彼氏の話に変わった。

石原さんの彼は大学時代からの友達らしかった。山崎さんは婚約指輪を貰ったばかりらしく石原さんが

「今度見せて。」

と言っていた。

私は早川さんの事を考えていた。もう待ってばかりではたえられない。一週間我慢したんだから明日にでも連絡してみよう。それとも今日電話だけでもしようか。

会いたかった。会ってまた抱いて欲しかった。早川さんの話をしていたら早川さんが恋しくてたまらなくなってしまった。

3人ともジョッキの中身が少なくなってオーダーした。会話が一瞬途切れたところで石原さんが切り出した。

「川村さん、実は今日話があって誘ったの。」

私はちょっと構えて聞いた。また何かやってしまったかと不安になった。

「なんでしょうか?」

「実は私達二人なんだけど。」

私は山崎さんの顔も見た。

「ごめんね。私達6月いっぱいで会社辞めるの。」

私は一瞬言葉を失った。

「え?2人ともですか?」

動揺を隠しきれずに聞いた。

「うん。そう。もう支店長や課長にも話してあって決まった事なんだけど。」

私はショックを受けながらも

「そうなんですか。」

と言った。山崎も言った。

「ごめんね。ひとみちゃんから辞める相談受けてたんだけど、ひとみちゃん辞めるなら私も辞めたくなっちゃって。」

私はただ

「そうなんですか。」

と繰り返して言うしかなかった。まだ後任は決まっていないのでそれまでに一連のルーティンワークだけは覚えて欲しいという事だった。

石原さんが言った。

「私達だけしか教えられない事は私達がそれまでに教えるけど明日から実務の大半は原田課長から教わって欲しいのね。」

私は思わずヒッと息を飲んで絶句した。

「嫌だよね。」

笑いながら石原さんが言う。

「でもきちんと教えてくれるから怖がらずに頑張って。」

私はただ

「はい。」

とだけ言った。それまでの楽しい空気が一瞬にして消えてしまった。
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