Immoral
「今話せますか?」

早川さんが聞いた。

「はい。大丈夫です。」

と私は答えた。

「急なんですが今日これからではいかがですか?」

私は一瞬躊躇した。ここのところ何時に上がれるか読めない。でもずっと待っていた連絡を逃すわけにはいかない。

「ちょっと遅くなってしまうかもしれません。いいですか?」

私も周囲をはばかり事務的な口調で言った。

「着いたら連絡下さい。では後ほど。」

そういって電話は切れた。

課長には次々と次はこれ、それが終わったらあれをやれと指示されていた。私は猛然と言われた事をこなしていった。

「あの、まだ何かありますか?」

一通り指示された事を済ますと課長のところにチェックしてもらいにいった。課長は私のタイプしたビザ申請用のレコメン(推薦状)の添削をしながら

「何かあるなら直しは明日でもいいぞ。これは後でみておくから。急いでるみたいだから今日は上がってもいいぞ。」

と言った。

「え?」

課長からの思いもよらない言葉が意外でびっくりした。

「上がっていいんですか?」

「なんだ、まだ仕事したいか?」

課長が半分ふざけたように言った。

「いえ、ちょっとびっくりして。」

私は本心から言った。

「上がっていいぞ。」

もう一度課長が言ったので、私は課長の気が変わらないうちに帰る事にした。急いで後片付けを済ませると

「お先に失礼します。」

と逃げるようにロッカーに向かった。
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