Immoral
会社の近くの洋食屋に入った。評判の店で、平日は並んでいて入れない。今日は待たずに入れた。

席に着くと課長は紺のブレザーを脱いで椅子の背にかけ煙草に火をつけた。課長がいると私はまだ少し緊張した。

3人ともメニューを選び始めた。こういう時マリはパッと注文を決めるけれど私とナオはぐずぐずとなかなか決まらなかった。ナオと私だけだったらまず店を決めるのも時間がかかる。

課長は先にオーダーした。やっと決めて2人とも課長に遅れてオーダーした。

メニューが下げられると課長が私に

「まだ俺のこと恐いか?」

と聞いてきた。

私は

「前ほどでは・・・」

と曖昧に答えた。課長は心外そうに

「俺、そんなに恐いかなぁ」

と一人言のように言った。私は黙っていた。否定すべきなのはわかっていたがついできなかった。

課長は白地に紺のストライプのボタンダウンのワイシャツに趣味のいいレジメンタルのタイをしていた。なかなかセンスがいい。紺のブレザーは仕立もよくおそらくは高価なブランドもの。

「服は奥さんが選ぶんですか?」

と私は聞いた。

「いや、自分で買うよ。」

と課長が答えた。課長は30歳ちょっと過ぎくらいの既婚者で子供がいない共働きという事を以前に聞いていた。

食事がくるとお腹が空いていた3人は黙々と食べた。評判の店だけあっておいしかった。食後のコーヒーの時に課長が

「軽く飲みに行くか?」

と聞いた。2人ともデートが待っていたので予定があるからと断った。

「なんだ、2人ともデートか?」

課長が言った。私もナオも否定しなかった。

「デートかよ、2人とも。なんだ、つまらないのは俺だけか。じゃそろそろ帰るか。」

と言ってコーヒーを飲み干した。

「ごちそうさまでした。」

「おいしかった。」

私とナオは課長にお礼を言って店を出た。

銀座通りに出て地下鉄で帰る課長と松屋の前で別れた。私とナオは有楽町まで歩いた。
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