Immoral
東京駅で反対方向のナオと別れた。自分の駅に着くと駅のトイレで化粧直しをしてから早川さんに電話した。いつものように早川さんは仕事していた。

しばらくして早川さんがやってきた。毎日ずっと会いたい、会いたいと思っていたから顔を見たら泣きだしそうになった。

「お疲れ様。」

と早川さんが言った。

「早川さんこそ。」

と私も言った。

「食事した?」

と早川さんが聞いた。約束した時に食事は済ませてしまうと早川さんは言っていた。

「うん。食べてきた。早川さんも食べた?」

私が聞くと

「うん。済ましたよ。今日はいつもよりちょっと時間があるけど何しようか?」

と早川さんが聞いた。

「早川さんと一緒なら何でもいい。」

私は早川さんの腕に自分の腕を絡めて上目遣いで早川さんを見あげた。

「どうするかなぁ?車あるけど時間もあるからちょっとドライブする?」

「うん!」

私は喜んで答えた。正直なところ早川さんと一緒にいられるならなんだってよかった。でもドライブは近場でもなんでもうれしかった。

早川さんは会社の駐車スペースまで歩いて行った。助手席に滑り込んだ。初めて早川さんとデートした時の事を思い出した。

「相変わらず散らかっててごめん。」

早川さんは助手席に置いてあったものを後部座席に移しながら言った。

「ありがとう。」

と言って私はシートベルトを締めた。

20分も走ると海岸通りに出る。車を停められるスペースを見つけて浜に降りた。

手をつないで海岸沿いを歩いた。犬の散歩をする人や他にもカップルが何組かいた。ジョギングをしている人もちらほらいた。

海上にはウインドサーフィンをしている人がたくさん見える。遠く水平線がキラキラと輝いている。この季節日没までにはまだちょっと時間があった。

空いていたベンチを見つけて座った。早川さんの肩に頭をもたげる。早川さんは私の肩を抱いた。

「ごめんね、いつも時間を取ってあげられなくて。」

と早川さんが言った。

「いいの。」

私は言った。

私は早川さんの手を取ってその指を自分の指でなぞった。骨っぽくて男性的だがしなやかで美しい手指。この手が大好きだ。

「綺麗な手。」

私は独り言のように言った。早川さんは黙って手を開いたり閉じたりしていた。
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