Immoral
雨の季節だった。日々の外出は雨で憂鬱だった。時間が許せば外出ついでにレイングッズをショップでみたりする事もあった。

先輩達は交替で有休消化に入っていたのでほぼ毎日二人体制での仕事だった。遅くまで残っていると営業の誰かにつかまって終電近くまで飲む事も多かった。

さすがに週の頭はきついので同期のマリとナオと3人なんとかまいて逃げる努力をしていた。

毎日帰宅したらくたくたでやっとの思いで入浴してベッドに倒れ込むという日々が続いていた。

週末も早川さんとはたまにしか会えなかった。会えたとしても短時間飲んだあとホテルに行って時間が許せばドライブしたりという感じだった。

寂しかった。私はもっともっと早川さんと一緒に過ごしたかった。セックスしていないと不安だった。

早川さんの背中に腕を回している時だけが安心出来た。それしか早川さんとの繋がりを実感できなかった。会えば会うほど会えない時間が辛くなっていった。

早川さんも私のそんな気持ちの余裕の無さに気づいているようだった。早川さんといろいろなところに行ったり一緒にいろいろなことをして笑いあったりしたかった。

でもそれは無理な話だということは分かりきっていた。無茶を言って早川さんを困らせたくなかった。

だから私の不満は私自身で折り合いをつけるしかないと思っていた。抱き合う事は慰めだった。抱き合うことでしか私の寂しさを埋める事はできなかった。

その土曜日、私は出勤シフトだった。

普段なら嫌々出勤というところだが今日は久しぶりに午後から早川さんとデートの約束をしていたのでお洒落してきた。

早く時間が過ぎないかなぁとウキウキしながらインボイスに社判をおしていた。土曜出勤は暇だ。電話はたまになる程度。ほとんどの取引先は休みだからだ。

「お電話ありがとうございます。YTトラベル、川村でございます!」

電話がなったので元気に出た。早川さんだった。

「ごめん。」

その一言で瞬時にして気持ちが沈んだ。

「今日アポが入っちゃってダメになった。ごめんね、また今度にしよう。」

私はなんとか落胆を隠そうと努めながら

「うん、わかった。」

と言った。

「ごめんね。」

とまた早川さんは言った。

「仕事だもん、仕方ないよ。気にしないで。」

と私は言った。ほかに何と言えただろう。本当にがっかりしてしまったので沈黙にならないうちに

「じゃあまたね。」

と電話を切った。早川さんは最後まで

「ごめんね。」

と言っていた。
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