Immoral

大人の男の人

大学最後の夏休み、20年以上暮らした家を取り壊し、仮住まいに一時転居していた。

年末には新居に入居する予定だった。
基礎工事が終わり少しずつ家の形ができてくるのを見るのは楽しかった。

モデルルーム見学から親に同行したし、建築中の新居の見学には就活で行けない時以外は毎回ついて行った。

うちの担当の現場監督は早川さんという人だった。初めて早川さんと会った時からかっこいいと思った。

施行が始まっても現地の工事担当者ではない早川さんはそう頻繁に現場に来るわけではなかった。

差し入れの茶菓子を配ったりするうちに、いつもの工事の担当者とは親しく話すようになったが早川さんは来たと思うとすぐに去ってしまいあまり話す機会がなかった。

それでも何度か挨拶を交わすうちに早川さんが笑顔を見せてくれることが多くなった。

気のせいかと思ったが、何かの説明をしてくれた後に向けられる眼差しに微かに特別なものを感じた。

それは私の願望ゆえにそう見えたのかもしれない。一通りの説明の後、何か秘密を共有するかのように「ね?」という感じに向けられる笑顔にこちらも意味ありげに甘えたような目線を返す。

徐々に私は早川さんが来る日を楽しみにするようになった。

早川さんは私より一回り程年上だった。昔からずっと年上の男性が好きだった。同年代より素直に甘えることが出来たし自分には合っていると思っていた。

背が高く、すらっと痩せていた。額に落ちかかる前髪を払う仕草にもそそられた。
器用そうな長い指。

その指が蛇口だったりコンセントだったりをさしながら説明をしてくれる。

私はそれを入学したての生徒のように従順に聞く。そんなやり取りに心がさわいだ。

家の完成を今か今かと待ち望んでいたが、同時に早川さんに会えなくなるのは寂しいと思っていた。

徐々に家が完成に近づき、私と早川さんの距離も近くなっていった。そう思うのは私の勝手な解釈かもしれなかったがそう考えるのもチャンスだと思った。

「早川さん、来てくださいね」

家がとうとう完成した時、母は完成パーティーをすると言い出した。元々そういうことが好きな人だった。

年が明けて落ち着いてから私の友人も呼んで卒業パーティーも兼ねてするのはどうだろうと母が言い出した。私はどうしても早川さんに来て欲しかった。

「日にちによるかなぁ。土日は難しいかなぁ」

多忙な人だったから土日は難しいのはわかっていた。

「出来たら来てくださいね。来て欲しいな。」

期待を込めてそう言った。
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