Immoral
 店を出ても課長は何事もなかったようにすたすたと歩いていた。とりあえず間があかないようについていった。

 皆が有楽町方面に歩いていく。こんな中でみんなを撒くなんて無理というものだ。そもそも撒くってどういうことなのか。
 課長に聞きたかったが一瞬も聞けるチャンスがない。

 課長の周りにも人はいたし私もナオと並んで歩いていた。いつもの流れなら東京駅まで一緒だ。

 マリとサトミは有楽町線だったからJRの手前で別れたけれど皆をどうやって撒いたらいいか、とうとう駅まで来てしまった。

 皆、二次会に行く、行かないで立ち止まってうだうだしている。
 私はなんとかその人の輪から離れて改札の手前まで来た。課長が脇に滑り込んできた。

「行くぞ。」

 と言った。みんなはまだ少し離れた後方にいた。

「走れ。走って反対側の出口からでるぞ。」

 後方を確かめながら課長が言った。

 次の瞬間、課長は私の手をぐっと掴んで改札を通り階段を駆け上がった。急いでホームを駆け抜けた。

 息を切らしながらホームの反対側まできて後ろを振り返ってみた。階段を上がってくる人の中に知った顔は見えない。まだ階段下で二次会の店を探しているに違いない。

 撒いたのだ。私は課長に手を引かれるまま改札を出た。

 改札を出ると課長は私の手を引いてずんずんと歩いて行った。

「課長!」

 アドレナリンが体中をめぐっていた。

「課長!早すぎ!」

 私はほとんど小走りで手を引かれて行った。

「もう大丈夫だな。」

 やっと課長が歩調を緩めた。

「課長、どういう事ですか?」

 私は抗議の声をあげた。

「日比谷公園にいこうぜ。」

 答えになっていなかった。そういってまた猛然と歩き出した。手がぐいぐいと引かれていく。

 でも私、嫌じゃない。全然嫌じゃない。というよりむしろドキドキしてドキドキして・・・

 こんなに心臓が踊っているのは走ったから?

 違う。そうじゃない。こんなに心臓がバクバクしているのは・・・まるで・・・

 そう。恋をしているみたい・・・
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