Immoral
サプライズ
営業の山崎さんの話では合コンには早川さんも来るということだった。
もちろん嬉しかったけれど忙しい人なので急に来られない可能性はいくらでもある。仕事でさえ急なスケジュール変更で来られなくなる事がよくあった。
だから当日本当に早川さんの姿を見つけた時は心が踊った。
携帯電話もない時代。そんな飲み会のメンバーといった事だけでなく、あらゆるシーンで当日行ってみるまで分からないという事が今よりずっと多かった。
すれ違いとか偶然とか、そんな事で物事の局面が変わってしまうことがよくあった。
乾杯から始まってごく普通の会話が続いていたが私はその間もずっと早川さんだけにある種の信号を送っていた。
あからさまな言動はおくびにも出さない。他の人に気づかれる様な事は一切しない。でも早川さんだけはその信号をキャッチしてくれているのを感じていた。
初めこそ全体に少し硬い空気があったが少しずつ緊張がとけて会話も自然になってきた頃、突然早川さんが私の方を見てはっきり通る声で言った。
「明日デートしよう」
みんなの前で宣言したような感じだった。私はただびっくりして目を見開き、静かに首を縦に振った。
一瞬その場全体が固まった。その後すぐ他の社員が早川さんを冷やかしにかかった。
普段から早川さんはそういうスタンドプレー的な事をするタイプとは思えなかったし、私と同様、その場にいた彼の同僚も少なからず驚いているようだった。少なくとも私にはそう見えた。
その後の合コンの会話はほとんど頭に入ってこなかった。何が起ころうとしているのか気もそぞろでのぼせたような気分だった。
(まさか変な冗談じゃないよね?)
早川さんは何事もなかったようにそれまでと同じ様子でお酒を飲んだり会話に参加したりしていた。私だけがふわふわと舞い上がっているような気がした。
帰り際、早川さんが私のところに来て声を落として言った。
「明日午前中仕事だから終わったら迎えに行くから。行く前にお家に電話します」
「はい。わかりました。」
そう答えるのがやっとだった。
帰宅してからあまりの嬉しさに母親に言ってしまった。1人で抱えるには嬉しさが大き過ぎた。
「明日早川さんと出かける!」
「早川さん?」
「そう。早川さんと!」
それからクロゼットと姿見を何往復もしてやっと次の日着ていくものを決めた。前の彼と別れて以来、これほどわくわくする気持ちは久しぶりだった。
「どうしよう、どっちがいいかな?」
母に言うともなく独り言ともなく言った。マニキュアの色で悩んでいた。リップと合わせて濡れたようにつやつやと光る濃くて深いローズピンクにするか、春っぽくてかわいいパールピンクにするか。
爪の色を決めるとまた服を選び直したり。そんなことを悩みながら夜が更けていった。
もちろん嬉しかったけれど忙しい人なので急に来られない可能性はいくらでもある。仕事でさえ急なスケジュール変更で来られなくなる事がよくあった。
だから当日本当に早川さんの姿を見つけた時は心が踊った。
携帯電話もない時代。そんな飲み会のメンバーといった事だけでなく、あらゆるシーンで当日行ってみるまで分からないという事が今よりずっと多かった。
すれ違いとか偶然とか、そんな事で物事の局面が変わってしまうことがよくあった。
乾杯から始まってごく普通の会話が続いていたが私はその間もずっと早川さんだけにある種の信号を送っていた。
あからさまな言動はおくびにも出さない。他の人に気づかれる様な事は一切しない。でも早川さんだけはその信号をキャッチしてくれているのを感じていた。
初めこそ全体に少し硬い空気があったが少しずつ緊張がとけて会話も自然になってきた頃、突然早川さんが私の方を見てはっきり通る声で言った。
「明日デートしよう」
みんなの前で宣言したような感じだった。私はただびっくりして目を見開き、静かに首を縦に振った。
一瞬その場全体が固まった。その後すぐ他の社員が早川さんを冷やかしにかかった。
普段から早川さんはそういうスタンドプレー的な事をするタイプとは思えなかったし、私と同様、その場にいた彼の同僚も少なからず驚いているようだった。少なくとも私にはそう見えた。
その後の合コンの会話はほとんど頭に入ってこなかった。何が起ころうとしているのか気もそぞろでのぼせたような気分だった。
(まさか変な冗談じゃないよね?)
早川さんは何事もなかったようにそれまでと同じ様子でお酒を飲んだり会話に参加したりしていた。私だけがふわふわと舞い上がっているような気がした。
帰り際、早川さんが私のところに来て声を落として言った。
「明日午前中仕事だから終わったら迎えに行くから。行く前にお家に電話します」
「はい。わかりました。」
そう答えるのがやっとだった。
帰宅してからあまりの嬉しさに母親に言ってしまった。1人で抱えるには嬉しさが大き過ぎた。
「明日早川さんと出かける!」
「早川さん?」
「そう。早川さんと!」
それからクロゼットと姿見を何往復もしてやっと次の日着ていくものを決めた。前の彼と別れて以来、これほどわくわくする気持ちは久しぶりだった。
「どうしよう、どっちがいいかな?」
母に言うともなく独り言ともなく言った。マニキュアの色で悩んでいた。リップと合わせて濡れたようにつやつやと光る濃くて深いローズピンクにするか、春っぽくてかわいいパールピンクにするか。
爪の色を決めるとまた服を選び直したり。そんなことを悩みながら夜が更けていった。