眠れる森の聖女
なんとかして、ここから離れたい。だが、何かしら栄養を取らないと成長できそうにないし、成長しない限りは動けない。

こんがり焼けたお肉がすぐそばにあるが、歯がないので食べられないし、そもそも動けないんだから舐めることすらできないのだ。

背に腹はかえられない。

俺は泣く泣く、その辺を這いずり回る虫を口に入れた。最悪な気分だが、明らかに体に染み渡る何かを感じる。

いつになったら自力で動けるようになるのか。

、、、結論から言うと、まあまあ時間がかかった。

栄養を取り始めてすぐに、ふにゃふにゃだった体が少ししっかりしてきた感じがしたのだが、寝返りすらうてない状態がしばらく続いた。

その後数ヶ月、動物からの攻撃と虫を口に入れる苦痛に耐え続け、やっとハイハイで移動できるようになった頃、俺は自分の意思で魔法の炎を操れるようになり、咬まれることが激減した。

顎の力が弱いせいか、歯が生えても肉を咬みちぎることができず、相変わらず虫と草を食べる日々だった。

とりあえず、俺はただひたすら移動を続けた。

体力がなさ過ぎて少しずつしか進めなかったが、いつしか立って歩けるようになり、走れるようにもなった。攻撃魔法のバリエーションも増えてきた。

森の中には小動物も結構いるが、俺が近付くと一目散に逃げていく。

殺気、、だろうか。殺気を抑えることができれば、攻撃されることも減るかもしれない。

予想通り、気配を消せるようになると、全く攻撃を受けなくなった。

なんなら、リスやウサギが向こうから近付いてくる。

かわいいな、、

転生してから生きることに必死だったが、やはりひとりは寂しい。早くこの森を抜けて、人間らしい生活を送りたい。

これまで闇雲に歩いてきたが、探知であたりをつけて移動できれば、、

そうだ。鑑定や結界、収納等の、あると便利系の魔法も、練習してみよう。

俺は単純だな。小動物と触れ合っただけで、こんなにも癒されて、心に余裕ができるなんて。

そうか、前世でも、猫とか飼えば良かったんだな。
< 119 / 189 >

この作品をシェア

pagetop