眠れる森の聖女

(サル)届かぬ想い

この3年、キラキラはかなり頑張っていた。

寝る時以外常にりかちゃんのそばにいて、彼女を守り、何かにつけて甘い空気を垂れ流しては、ニ言目には「かわいい」、隙あらば「好きだよ」と、囁き続けた。

少女漫画から抜け出してきた王子様でもここまでしないだろうと思うほどの、徹底したオフェンスだったと思う。

俺がいくら邪魔しても全く動じることなく、キラキラはいつも憎らしいほどにスマートだった。あいつは真正の王子様なんだと思い知らされた3年だった。

でもりかちゃんは、キラキラのキラキラ攻撃に動じることなく、いつも華麗にスルーしていた。

だから俺は、忘れていたんだ、、

りかちゃんが何を考えてるのか全然わからなくて、想いを通わせるのに半年以上かかったことを。

キラキラの努力は、確実にりかちゃんの心を動かしていたのだ。

今日、キラキラがひとりで王国に戻ると言った時、りかちゃんは見覚えのある表情をした。

俺とりかちゃんが初めて出会った日。居酒屋を出た時に見せた、あの寂しそうな表情。

多分りかちゃんは、キラキラと離れるのを、寂しいと感じたのだろう。

きっと、俺がいなくなっても、教皇がいなくなっても、りかちゃんは同じように寂しいと感じるはずだ。

だが、俺はサルだし、教皇は若く見えるがじいさんだ。悔しいが、本当に悔しいが、りかちゃんの幸せを考えたら、キラキラとの未来が一番明るいだろう。

どうして俺はサルなんだろうな。

でも俺が人間だったら、この世界でりかちゃんには出会えなかっただろう。俺がサルじゃなかったら、りかちゃんは今もあの森の結界の中で、終わりのない孤独と戦ってたんだ。

それは、駄目だ。りかちゃんに、そんな思いをさせるなんて、ありえない。

だから俺はサルだったんだな。

多分、自分でサルか人間かを選択できたとしても、りかちゃんを救えるなら、絶対にサル一択だ。

うん、やっぱり、りかちゃんのいない世界より、例え俺のものにならなくても、りかちゃんのいる世界がいい。

本当に、、悔しいな。なんで俺はこんなにもりかちゃんのことが好きなんだろうな。

『りかちゃん、愛してるよ』

キラキラに負けじと、俺もサル語で愛を囁く。

この想いがりかちゃんに届くことはないし、それでいい。

俺はりかちゃんのそばにいられれば、それでいいんだ。
< 129 / 189 >

この作品をシェア

pagetop