眠れる森の聖女

(明煌)俺は天を掴む男

「やっぱり収納魔法をイメージさせる物がないんだよねー」

鉛筆を口と鼻の間に挟みながら、梨花子さんがぼやいた。

「質量をゼロにする、、光は質量がないから、、光、、素粒子、、」

梨花子さんは、これまで魔法を行使する際、全てを科学から変換させてきたのだろう。

ファンタジーの産物である収納魔法を科学に変換するのは、多分無理だと思う。空間魔法や時間魔法は、元の世界では理論の域を超えた空想以外の何物でもないのだ。

「梨花子さんの治癒魔法は、何をイメージしてるんですか?」

「あー、あれは、、何だっけ?あれ?」

やはり、あの治癒魔法は科学では説明しようがない。

「梨花子さんの魔動力が僕や教皇に比べて少ないのは、もしかしたら科学のせいかもしれませんね」

「どういうこと?」

「科学の知識が魔法の発動を簡素化させていて、僕や教皇より魔動力の消費が少ないのかも?」

「嘘でしょ?じゃあ、あきら君はどうやって魔法を発動させてるの?」

「梨花子さんは治癒魔法をどうやって発動させてますか?」

「えーそんなのずるいよー」

「でもそれがわかれば、空間魔法も時間魔法も使えるようになるかもしれませんよ?」

梨花子さんが収納魔法に拘ってるのは、空間魔法に転移魔法の可能性を見いだしているからだ。

空間魔法を使った転移魔法は可能だと思うが、リスクを考えると試してみたいとは思えない。ただ、梨花子さんがなんとしても転移魔法を使えるようになりたいと考えているようなので、遅かれ早かれ試すことになりそうで憂鬱だ。

はあ、俺は結婚して平凡な人生を歩むのが夢だったのに、、

「梨花子さん、この前神様は文系だって嫌そ~に言ってましたよね?その辺にヒントがあるかもしれませんよ?」

前世で数学を専攻していた俺は、医者だった梨花子さんと同じく、所謂理系脳なんだと思う。

何か違いがあるとすれば、俺はアニメやゲームの影響でファンタジー世界にどっぷり浸かっていて、その世界で最強とされるのは、いつも数学では説明のしようがないものばかりだと知っていたことだろうか。

文系・理系の枠にとどまらない創造の世界に、俺の胸は踊った。

どうやって魔法を発動させてるか?

魔法を使える俺に、不可能なことなんて何もない。

この万能感こそが、俺の魔法の原動力だ。

前世から数えて40歳を越え、俺は今、盛大に中二病を拗らせているらしい。
< 139 / 189 >

この作品をシェア

pagetop