眠れる森の聖女
「戦争が起こってしまったことは残念だったが、レオンティウス、お前のおかげで被害は最小限に抑えられた。心から感謝する」

「いえ、私の力が及ばなかったばかりに戦争を回避できず、一般人にまで犠牲者が、、戦争を終わらせたのも聖女の力によるものです」

「そんなに己を卑下せずともよい。元は私がラグランジュ公を抑えきれなかったのが原因だ。それに聖女を森から連れ出したのはお前ではないか」

「父上、、」

戦争が終わったとはいえ、少なからず犠牲者が出たことは、世界に大きな傷となって刻まれた。その責は王族である自分達にあると、俺と同じように父も兄も感じているのだろう。

重苦しい空気の中、ここまで黙って話を聞いていた兄が口を開く。

「陛下、私は王位継承権の剥奪を望んでおります。その上で、今回の戦争の責任を取りたいと考えております」

「兄上!待って下さい!兄上は何も、、」

「何もしなかった!母上やラグランジュ公が暴走しているのを、私は何もせず、ただ黙って見過ごしていたのだ!」

声を荒げた兄を制するように、父が言葉を継ぐ。

「レオンティウス、私もアレクシウスと同様に責任を感じている。今回の戦争は本来なら私が阻止すべきものだった。それができなかった私に、王座は相応しくない」

「そんな、、父上まで、、」

「前に話した時、お前は自分が王に相応しくないと言っていたな?何故そう思うのだ?」

何故?王太子を兄に持つ俺に、そんな疑問を挟む余地は元からなかった。だが敢えて理由をあげるなら、、

「国の平和を守るのが王であるものの使命。王は全てを包み込むほどの優しさでこの国の平和を守り、父上と兄上はその優しさを受け継いでいる。私にはその優しさがありません。父上のあとを継いで王になるのは王太子である兄上であり、その地位を揺らがす私は、この国の平和を害する異分子に他なりません」

「優しいだけでは足りないと、此度の戦争で身をもって知ったであろう?」

「ですから!その足りない部分を兄上のわきで支えようと、これまで努力してきたのです!」

「そう考えて努力を続けてきたお前に、優しさがないとは思わない。それに今回、王である私とラグランジュ公の血縁であるアレクシウスが、責を負わずにいられると思うか?」

「それは私も同じ、、」

「同じではない。そしてお前にしかこの国を託せないのだ。どうかわかって欲しい」

「ですが、、」

「お前に優しさが足りないと言うのなら、私とアレクシウスがそれを補えばいいのだ。違うか?」

父の意志は固く、はねのけることはできそうになかった。

兄は王籍を離脱して公爵位を与えられ、当面の間、戦場となったアレオンを含む領地の復興に尽力することが決まった。

そして父は退き、俺はトレドミレジア王国の王となった。
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