眠れる森の聖女
しかし、聖女とサルの間に、更なる魔力の形跡が感じられたことに、私は驚かされた。

「これは『伴侶の契り』か?いや、『魂の誓約』なのか?」

『伴侶の契り』とは、男女が婚姻を結ぶ際、やはり教会で交わす契りである。しかし、政略結婚や金銭のやり取りが生じる婚姻も少なからずあるため、あくまで形式的なものであり、男女であるなら簡単に契りが交わせるという、相手を縛るということ以外では、ほとんど意味をなさないものである。

聖女とサルの間に、その『伴侶の契り』に酷似した魔力の形跡を感じた。

「サルと離れたくないの!ずっと一緒にいたいの!」

言葉が通じたとわかった時、聖女が何よりも先に我々に訴えたのは、この言葉だった。聖女が何よりも恐れていたのは、サルと引き離されることだったのだ。

『魂の誓約』とは、男女問わず、生涯を共に生きると心から誓いあった者にのみ交わされる、上位の契約魔法である。

一片の曇りも許されないその誓約を、聖女とサルが交わしたというのか。

縛りではなく不変の結びつきを意味するこの誓約を目にしたのは、初めてであった。

長年連れ添った者同士の中にはこの誓約を結べる者もいるだろう。だが、悪戯に誓約を交わさずとも、その結びつきがあればそれでいいと考える者は少なくない。そう考える者達だからこそ、長年連れ添えるとも言えるのだ。

「あなたには、やはり敵いそうもないですね」

サルにそっと語りかけ、私は聖女とサルが眠るテントをあとにした。
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