眠れる森の聖女

(聖女)なめくじに塩

ジョニデは、水を入れたグラスをテーブルに置き、それをじっと見つめた。何をしてるんだ?と思う間もなく、グラスの水が動き出し渦を巻いた。

「おおー凄い!ジョニデ凄いな!」

「魔力は水に似たイメージなので、水を使って練習するのがおすすめなんです。自分の魔力を、水に繋げて、同化させて、かき混ぜる。同化させる魔力が少ないと反応しないし、多過ぎると最悪グラスが割れてしまうので、聖女は特に気を付けて下さい」

なるほどそれはわかりやすい。さすがジョニデだ。欲しかった情報がほぼ出揃った感あるな。

よし、早速試してみよう。

グラスの水を見つめる、魔力を水に繋げて、同化、かき、、パンッ!

「魔力が多過ぎです。片付けて下さい」

うう、ジョニデが塩過ぎる。しょっぱい。

ジョニデの部屋にあったグラスを更にふたつ割り、木のコップに格下げされて練習を続けるも、どうにもこうにも魔力を抑えるというのが難しい。コップが小さ過ぎるのがいけないのか、、と思ってこぼした水を拭くのに持ってきた雑巾とバケツを見つめる。

「それをこぼしたら、自分の部屋に戻ってもらいますからね」

ジョニデが冷たく言い放つ。うう、私がなめくじだったら、今頃ジョニデの塩で消滅してたわ。

ジョニデの部屋のテーブルと床に水をこぼしまくって、その水を拭き続けた結果、、水がこぼれる前に、倒れそうになったコップを手で押さえるという技を身につけた。残念ながら魔力量の操作はまだできていない。

水をこぼさなくなって、床が乾き始めた頃、レオ様が買い物から帰ってきた。走ってきたのか、肩で息をしているレオ様が、お土産を渡してくれた。

「おーさすがレオ様、趣味がいいね!嬉しい!ありがとー!」

やっぱ王子だからかな?ちょっと姫っぽいイメージ、だいぶかわいい。早速午後からの買い物に着て行っちゃう。

ワンピースを体にあててクルクルしている私を、レオ様が優しい笑顔で見守っている。サルに髪の毛をぐちゃぐちゃにされているのにキラキラだ。

「そうそう、お昼食べたらジョニデとちょっと本屋さんに行ってくるね」

「俺も行く」

「ん?レオ様も何か探してるの?私達、欲しいの見つけたらすぐ戻るつもりだよ?」

「いや、でも俺も行く」

どうしたレオ様。ジョニデに続いてレオ様まで様子がおかしいとか、勘弁して欲しい。

ご飯にピリ辛のそぼろと目玉焼きが乗っているお気に入りのランチを食べて、レオ様チョイスの姫ワンピに着替え、ウキウキで本屋へと向かう。

本屋と言っても、やはり日本ではないし古本屋って感じ。それに数も少ないな。

「ジョニデ、いいのありそう?」

「ええ、一般的に使われてる基本を学べる本がありましたよ」

渡された本を開いてパラパラーっと見てみる。

「読めない」

脳内でピチピチレオタード姿のお笑い芸人があたりまえな体操を歌って踊り出した。

やはり話し相手がいると、脳内で映像や音楽が流れる機会が減るんだなと、なんとなく思った。
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