眠れる森の聖女

(涼太)捨て猫りかちゃん

「りょうちゃん、元気にしてるかなあ」

そう言って、りかちゃんが寂しそうな顔をしてるから、俺は彼女のそばに行く。

俺は元気にやってるよ、、

サルになっちまったけどな!

こんなラノベのような展開があっていいのかと思うが、なってしまったものはしょうがない。

りかちゃんがいなくなってから、俺はしばらく脱け殻のような生活を送っていた。

りかちゃんと過ごした家で、りかちゃんと観た映画を観たり、りかちゃんと聴いた音楽を聴いた。休みの日は、りかちゃんと行った海へ、あのオープンカーを走らせた。

俺は本当に女々しい男だ。

全力で仕事をしてボロボロになったりかちゃんが「ただいまー」って帰ってくる気がして、いつまでも生活を変えることができなかった。

なんでこんなにりかちゃんのことが好きなのか、自分でも全然わからない。

始めて会った時のりかちゃんは、正直浮浪者みたいだったし、ほっとくと彼女はすぐにその状態になってしまうんだ。

あの公園であまりにも怪しい雰囲気を漂わせていたりかちゃんが、女の人だと気付いて心配になり声をかけた。かなりギリギリの判断だった。やばい人なら走って逃げようと思ってたんだけど、意外と普通の人で、しかもちょっとかわいくて、よく見たらなんだかゲッソリしてて。

捨て猫をどうしても面倒みたくなっちゃう系の俺は、そんな彼女にご飯を食べさせたくなっちゃって。

明るいところに連れて行ったら、やっぱり彼女はかわいくて、ご飯を一生懸命食べる姿もたまらなくかわいくて、俺の話を楽しそうに聞いてくれるのも凄く凄くかわいくて。

お店を出たら、彼女が凄く寂しそうな顔をしたから、つい別れがたくなっちゃったんだ。

りかちゃんが拒絶しないのをいいことに、俺は彼女の家にあがり込んだ。

難しそうな本や雑誌ばかりがたくさんあって物が少ないその部屋は、思ってたほど汚くなかったけど、それは生活感がまるでないせいだった。物を食べた形跡がないし、風呂もおそらくほとんど使われていない。服はほんの少ししか置いてなかった。

嫌がる様子がないので一緒にお風呂に入って洗ってあげたら、気持ち良さそうにしているりかちゃんが本当に猫みたいで、俺まで幸せな気分になった。

りかちゃんの手持ちの服よりマシな臭いだったから俺の仕事着を着せて、その日はふたりで抱き合って寝た。

翌日自宅に戻った俺は、彼女の部屋にあった汚れた服を洗濯し、弁当持参でまたりかちゃんの家を訪れた。

りかちゃんは、俺が出て行った時と全く同じ状態のまま、ソファーに座ってボーッとしていた。

まじか。

今日のりかちゃんはいい匂いだったけど、昨日の気持ち良さそうな顔がもう一度見たくて、一緒にお風呂に入った。そして洗った服を着せて、持ってきた弁当を一緒に食べて、その日も抱き合って寝た。

しばらくりかちゃんの家に通ってわかったのは、どうやら彼女は無職だってこと。生活に困ってる感じはしないけど、とにかくりかちゃんは生活力がなさ過ぎた。今までどうやって生きてきたのか不思議なくらい。

俺はりかちゃんのことが放っておけなくて、自分の負担にならない程度で、彼女の面倒を見るようになっていた。
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