眠れる森の聖女
少しすると、りかちゃんはボーッとする時間が減ってきた。

よくわからないけど、きっとりかちゃんは何かつらい目にあって、少し心にお休みが必要なんだろうなと思った。だから、りかちゃんが俺に笑いかけてくれると、それだけで嬉しい気持ちになった。

俺は仕事の時間以外、ほとんどりかちゃんと過ごすようになっていた。

りかちゃんが少しでも癒されれば、なんて思ってたのに、いつの間にか、彼女との時間が俺の癒しになってることに気付いた。

りかちゃんとは、一緒にお風呂に入ってるし、毎日一緒に寝てるけど、いわゆる男女の関係にはなっていなかった。我慢をしていないと言ったら嘘になるけど、彼女が俺のことをどう思ってるのか全くわからなくて、手を出せずにいた。

それでも俺は、既にりかちゃんと離れがたくなっていた。

だから、りかちゃんが就職するから引っ越すと言った時、言外に「別れる」という言葉がちらついていたのを無視して、また強引に彼女の新しい家に転がり込むことにした。

だって、りかちゃんの顔が、始めて会ったあの夜と同じで、凄く寂しそうだったんだ。

多分りかちゃんも、俺と同じ気持ちなんだと思う。俺の気持ちははっきりしてるけど、りかちゃんの気持ちには確信が持てない。りかちゃんは、あまりにも掴みどころがなさ過ぎるんだ。

あまりにも曖昧な関係に不安が拭えず、自宅を解約せずに残していたヘタレな俺は、これを機に完全同居をすることにした。

仕事を始めたりかちゃんは、何かに取り憑かれているかと思うほどの変わりようで、はじめはかなり戸惑った。

いつもボロボロの濡れぞうきんみたいな状態で家に戻ってくるりかちゃんは、まるで出会った頃のようだった。

だから俺はりかちゃんが帰ってくる度にせっせとお世話をして、彼女を幸せそうな顔にしてあげた。その顔が俺を何より幸せにしてくれるから。

そんなある日、彼女が突然俺に聞いてきた。

「どうしてりょうちゃんは私の世話をやいてくれるの?」

この子は何を今更言っているんだ?

「りかちゃんのことが大好きだからに決まってるじゃん!」

あ、そういえば、思うばかりで、ちゃんと言葉にしてなかったな。そんなことを考えて、今後改めようと思っていたら、、

「りょうちゃん、ありがとう、私も大好きだ」

思いがけないりかちゃんからの告白に、俺は泣きそうになるのを我慢して、彼女をぎゅっと抱きしめた。

俺は彼女にそっとキスをして、その日ふたりはようやく結ばれた。
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