内緒で三つ子を産んだのに、クールな御曹司の最愛につかまりました【憧れシンデレラシリーズ】
日本橋にあるSparcilの自社ビルに到着すると、エントランスの巨大モニターに『恋叶』という名の鉛筆のCMが繰り返し流れていた。
私が過去に開発した夜光鉛筆『夢叶』の姉妹商品で、一見シンプルな鉛筆であるものの、暗い場所で見ると小さなハートの絵と恋の格言などが光って浮き上がるというものだ。
この鉛筆を使ってラブレターを書くと成功するだなんてジンクスも学生の間では生まれているらしい。
デジタル端末に慣れ切った若者たちの心に、鉛筆というアナログな文具が響いたことは、文具メーカーのいち社員としてとても嬉しい。
「おはようございます」
開発部のオフィスに到着し、同僚たちに挨拶をする。すると、年度初めに課長から部長に昇進した石狩さんが、私のデスクに歩み寄ってきた。
年は三十七歳。ソフトリーゼントの髪型や眉に二センチほどの傷があることから、第一印象は怖い上司。
実際、学生の頃は弟さんと一緒にバイクを乗り回してやんちゃをしていたらしいが、ぶっきらぼうな口調とは裏腹に世話を焼きたがるタイプである。
開発の仕事の面白さを教えてくれたのも彼だし、すぐに上司として信頼できる存在になった。