内緒で三つ子を産んだのに、クールな御曹司の最愛につかまりました【憧れシンデレラシリーズ】
「なぁ、羽澄、一個だけ教えてくれ」
彼がそう言った瞬間、微かに通路の床が軋む音がした。誰かがトイレを使いたいなら、道を空けなければ。
頭の片隅でそう思いつつも、霜村くんの話に耳を傾けた。
「このまま専務と結婚して、後悔しないのか?」
咎めていると言うより、心配しているような口調だった。
龍一さんへの気持ちを自覚してから、私もそのことは何度も考えた。
いくら私が本気で彼を好きになろうと、偽装結婚の未来は変わらない。周囲の人間の前でだけ仲睦まじくする、仮面夫婦のような関係が待っている。
今はまだ、恋愛に不慣れな私への訓練として、極力愛情があるかのように龍一さんも振舞ってくれているけれど……それもきっと最初のうちだけ。
つらくなるのはわかりきっている。
「後悔……するかも、しれないね」
霜村くんには嘘をつけず、正直な胸の内を告げる。
すると彼がいっそう険しい顔になったので、私は明るく微笑んでみせた。
「でも、しょうがないよ。自分で選んだことだもん」
そう言った直後、先ほど感じた人の気配がどこかへ消えていくのを感じた。たまたま通りがかっただけの店員だったのかもしれない。