内緒で三つ子を産んだのに、クールな御曹司の最愛につかまりました【憧れシンデレラシリーズ】

 重たい気持ちを引ずりながらもなんとか仕事を始め、昼休みを迎えた頃だった。

 ステーショナリー開発部に、龍一さん本人が姿を現したのは。

「久しぶりだな、真智」

 頭上から降ってきた低い男性の声に、キーボードを叩く手がぴたりと止まる。普段オフィスに現れることなどない人物の来訪に、室内は水を打ったように静まり返った。

 石狩さんから彼の意思を聞いていたとはいえ、わざわざオフィスまで会いに来るとは予想外だ。それに、下の名前で呼ぶなんて。

 私たち、もう赤の他人じゃないの……?

 声に出さずに問いかけながら、彼のスーツのネクタイを辿るようにしておそるおそる視線を上げる。

 強い意思を滲ませる漆黒の瞳でこちらを見据えているのは、元婚約者である降矢(ふるや)龍一さんその人だった。

 一度動画を通して顔を見たとはいえ、別れた三年前より痩せて精悍さの増した顔、少し伸びた髪に大人の色気を感じ、不覚にも鼓動が激しくなる。

「話がある。仕事が終わったら社長室へ」

 感情の読めない声で淡々と言うと、彼はスッと私のもとを離れていく。

 その姿が扉の向こうに見えなくなっても、彼の纏うシャープな印象のフレグランスが残り香となって漂い、私の胸をかき乱した。

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