内緒で三つ子を産んだのに、クールな御曹司の最愛につかまりました【憧れシンデレラシリーズ】
偽装結婚の相手に任命されました
――三年前。
「素敵。タイムスリップしたみたい……」
風に揺れる柳の緑を水面に映す、倉敷川。川を挟んだ両脇に白壁の土蔵や町屋が立ち並んだ風情ある景色を眺めながら、ぽつりと呟いた。
秋晴れの広がった十月上旬の金曜日。私は岡山県倉敷市の美観地区を訪れていた。Sparcilの研修旅行の一環だ。
Sparcilという社名は、閃光やきらめきを意味する『sparcle』と『pencil』の造語。〝毎日使う文具にきらめきを〟という意味が込められているらしい。
私もそんな社名に恥じない文具を生み出すべく、本社のステーショナリー開発部でコツコツ日々の業務をこなし、今年で入社五年目になった。
ボツになった企画は数えきれないが、企画が採用されて商品になり、店頭に並ぶ喜びは何物にも代えがたい。
仕事の他に趣味もなく恋人もいない私にとって仕事を頑張ることだけが生きがいだが、今回の研修旅行はそのご褒美のようなものだった。