内緒で三つ子を産んだのに、クールな御曹司の最愛につかまりました【憧れシンデレラシリーズ】
食前酒の後は、飲み慣れない日本酒を小さなグラスに一杯だけ、それもちびちび口をつけていただけの私はこの有様なのに、食事中に三杯飲んだ彼は最後まで顔色が変わらなかった。
フロントに向かう広い背中は、私と違ってしゃきっとした姿勢を保っている。
ロビーのソファを目指してゆっくり足を進めていると、ふいにすれ違った女性と肩がぶつかった。
「あ、すみません……」
すぐに謝ったものの、女性は立ち止まることなく私の前から去る。通り過ぎる時にふわりとなびいた長い髪から、バラのような甘い香りがした。
あれ? この香り、どこかで……。
「降矢専務、お待ちしてました!」
「あなたは広報部の……」
気になる会話に顔を上げると、目に飛び込んできたのはフロントの前で話す専務と小峰さん。
覚束ない思考の中で、『美男美女だなぁ』なんて思う。
せっかくなら彼女を結婚相手にすればいいのに……。一瞬そんな考えが脳裏をよぎったが、専務は自分に好意のない相手を望んでいるのだと思い出した。
手近なソファに腰を下ろし、ふたりのやり取りをなにげなく見つめる。