内緒で三つ子を産んだのに、クールな御曹司の最愛につかまりました【憧れシンデレラシリーズ】

 ふっと苦笑した彼が、テストの結果発表の時と同じように私の眼鏡のつるを掴み、正しい位置まで引き上げる。

 二度目ながらドキッとして、一瞬にして酔いが覚めた。

 ……この人は突然接近するから心臓に悪い。

「し、失礼しました。それでは私はこれで……」
「ああ。おやすみ」

 気恥ずかしくて専務の前から逃げるように離れる途中、ふと視線を感じて辺りをキョロキョロする。

 すると、エレベーターホールへと続く通路の方からこちらをジッと見ている小峰さんと目が合った。というか、もしかして睨んでる?

 不穏なオーラを纏った彼女を見つめ返したら、彼女はぷいと顔を背けて通路の角を曲がり、姿が見えなくなる。

 テストのこと、やっぱりまだ納得していないのだろうか。それとも私が言い返してしまったから、変な風に刺激してしまったのかな。

 友達は少ない方だしひとりでいるのが苦痛なわけでもないが、身近な人からあからさまに敵意を持たれた状態はさすがに落ち着かない。

 時間が解決してくれるといいけれど……。

 微かにお酒の匂いが残るため息を吐き出し、私はとぼとぼと部屋へ向かった。

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