輿入れからのセカンドライフ

事件の幕引き

(ガルクス……っ) 
 涙を滲ませながら、ティセアラは目を閉じた。嫌なことを想像してしまう。このまま襲われたら、ガルクスの妻では居られなくなるのではないか、と。そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。好きなんだ、ガルクスのことが、好きになってしまったんだ。一緒に居られなくなるのは、絶対に嫌だ!

「放せ! 放せよ!」
 急に暴れ出したティセアラに、男達は複数人がかりで押さえ込む。その隙にナイフを持っていた男はティセアラのベルトに手を掛け出したので、全力で蹴りをお見舞いしてやった。
「この、糞餓鬼が!」
 顔を何度も殴られるが、それでもティセアラは暴れた。きっと、ガルクスが来てくれる。絶対に助けに来てくれると信じているから――。その時、全速力で走ってくる足音が聞こえた。

「ティセアラ!!」
 ドアから、待っていた存在が助けに来てくれた。やっぱり、信じていて良かった――。
「ガルクス……」
 来てくれたことに安堵し、涙がこめかみを伝った。その瞬間、ティセアラの上に馬乗りになっていた男が吹き飛んだ。他のティセアラの腕を拘束していた男達も、一斉に殴り飛ばされた。
「こいつに、触るな!」
 フーッ、フーッと荒い息遣いで殴り飛ばしたガルクスは、ティセアラの状態に気付き、近づき上体を起こさせると、着ていたロングコートをティセアラに羽織らせた。
「ガルクス……」
「子ども達も救助した。もう、大丈夫だ」
 そう言いながら頭を撫でられ、我慢していたものが一斉に溢れた。
「ガルクスッ」
 名を呼びながら、ガルクスに抱き着いた。涙が頬を幾つも伝い、子どものように泣きじゃくった。後から他の捜査隊の人達が駆け付け、男達を拘束していった。その間、ティセアラはガルクスに抱き着きしがみ付き、声を上げて泣いていた。そんなティセアラを、ガルクスは静かにぎゅっと抱き締め返してくれていた。



 ガルクスに横抱きに抱えられ自警団に戻ると、隊長室に連れて行かれた。未だ泣き止むことの出来ないティセアラは、ガルクスにしがみ付いたままだ。椅子に座っても、そのままだ。
「ティセアラ、もう泣き止め……」
「だって、だってぇ……。怖かったの、凄く、怖かったのぉ……」
 再び大粒の涙が瞳から零れ、頬を伝う。ガルクスは垂れてしまった猫耳を撫でながら、舌で頬を伝う涙を舐め取った。
「もう大丈夫だ。だからもう泣き止め」
「うう……っ、止まらないの、勝手に、溢れてくる……」
 泣き止みたいのに、涙が勝手に溢れてくる。それ伝えると、ガルクスは何度も頬を伝う涙を舐め取り、頬に何度もキスをした。なん十分もそれを繰り返してくれた。
 温かい――。そう思うティセアラに、ガルクスは微笑んだ。
「よし、泣き止んだな」
「あ……」
 確かに、漸く涙が溢れなくなった。目を擦るティセアラの手首を確認したガルクスは、ティセアラの手を掴んだ。
「ガルクス?」
 涙の未だ滲む瞳で、首を傾げるティセアラ。手首に視線が集まっていることに気付き、言葉を発した。
「結構、きつく縛られてただけだよ。痛くない」
 そう言うが、ガルクスはティセアラの手首を顔に近付け、そっとキスをした。何度も何度も行われる行為に、次第に恥ずかしくなってきた。
「ガルクス、擽ったい」
「……そうか」
 つい恥かしさに擽ったいと言ってしまったが、ガルクスの唇が触れる度、心地がよかった。
「家に帰れるか?」
「ガルクスは?」
「俺は奴らの尋問がある」
 もう真夜中だが、ガルクスにはまだ仕事が残っているらしい。ティセアラはしがみ付いたまま、ガルクスを見上げた。
「……一緒がいい」
 精一杯の我が儘に、ガルクスは溜息を吐く。やはり、だめだっただろうか――。そう思っていると、急にガルクスは立ちあがった。そのままティセアラを抱えたまま、部屋の外に向かって歩きだす。
「わっ、ガルクス?」
 部屋の外には、何人もの人が集まっていた。
「お前ら暇だな? うん、暇そうだ。尋問やっとけ」
「「「ええ!」」」
 急にそう言い出すと、ガルクスはティセアラを連れて自警団の駐屯地から出てしまった。
「が、ガルクスッ、尋問は!?」
「あいつら暇人がやる。いいから帰るぞ」
 そう言いながら抱えなおされ、ティセアラは恥かしさにガルクスの胸に顔を埋めた。




 屋敷に戻ると、真っすぐ自室へと向かわされた。部屋の奥、バスルームに連れていかれ、服を一枚ずつ脱がされる。
「ガ、ガルクスッ」
「汚ねえ奴らに触れられた所、全部俺が洗い流す」
「ひ、一人で大丈夫だから!」
 上着を脱がされ、ハーネス・ベルトと剣帯を取られる。腰のベルトに手を伸ばされ、あの時の男の時のような嫌悪感は微塵にも感じなかった。ゆっくりと、ベルトも外されて、ズボンも下ろされる。
「俺が嫌だ。お前の体の隅々まで、俺が洗う」
 そう真っすぐな目で見つめられ、ゾクゾクと何かが駆け抜けた。破かれたブラウスに手を伸ばされ、そっと脱がされる。下着だけとなってしまったティセアラは、恥かしさに顔だけでなく肩口まで真っ赤に染まっていた。
 下着姿となったティセアラに配慮してか、ガルクスも一気に服を脱ぐ。逞しい筋肉の浮き出た肉体は、とても魅力的だった。互いに下着姿になり、そっと、唇を重ねる。初めてのキスだった。
「俺に任せろ。いいな」
 燃えるような真っすぐな瞳に見つめられ、ティセアラは頷くしかなかった。そっと下着を脱ぎ、裸になる。ガルクスの喉が上下に動いたように見えた。再び顔を寄せられ、唇を重ねた。




 浴室から出て、恥かしさのあまり憤死しそうなくらいに顔を真っ赤に染めたティセアラ。つい勢いに任せて裸を見せ合い、何度も唇を重ねながら体を互いに洗い流し合ってしまった。抱き合いこそはしてないが、互いに触れ合いをしてしまうとは――。ガルクスの至る所を泡で擦り、逆に体の隅々まで擦られ……思いだしただけで憤死してしまいそうだ。
 バスローブのままソファに座り、横になろうとする。すると、ガルクスから声を掛けられた。
「ティセアラ」
「な、何……?」
 振り返り、恥ずかしそうにガルクスに視線を向ける。視線の先のガルクスは、ベッドを叩いていた。こっちに来いと言ってるかのような素振りに、ティセアラは更に恥ずかしくなった。中々来ないティセアラに痺れを切らしたガルクスは、ベッドから立ち上がりソファまでくると、ティセアラを横抱きにしてベッドに運んでしまった。
「ちょ、ガルクス!」
「今日だけでも、ここで寝ろ」
 抱き寄せられ、ガルクスの腕の中に閉じ込められる。温かで心地よい温もりに、ティセアラはそっと体の力を抜いた。
「ガルクス、寝た?」
 ティセアラの言葉に、反応はなかった。もう寝てしまったのだろうか。そっと上を見上げると、目を閉じたガルクスがいる。一定のリズムを刻む心音を聞きながら、ティセアラはポツリと呟いた。
「私、あなたのことが好きだ」
「知ってる」
 突然降ってきた言葉に、ティセアラは目を見開く。咄嗟にガルクスの顔を見ようとしたが、抱き締められ胸に顔を埋めさせられた。
「わぷ、ちょ、ガルクス! 起きてたなんて狡いぞ!」
「勝手に寝てると思ったのはお前だろうが」
「~~~~っ!」
 次第に顔が紅潮していく。ティセアラは叫んだ。
「私が言ったんだ! ガルクスも私のことをどう思っているのか言え!」
 その言葉の後、ガルクスは暫し沈黙した。そして、「察しろ」とだけ答えた。
「ず、狡いぞ! 私だけに言わせておいて!」
「だあ、もう……だから察しろっての!」
 ぎゅっと抱き締められ、ガルクスの心音が聞える。先程よりも早く打ち付ける鼓動を聞き、ティセアラは察したのだった。それが嬉しくて、心が幸せに満ちて……ティセアラは顔を綻ばせながらガルクスの胸に顔を埋めた。
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